『おくりびと (2008)』

 
 意味や必要がありそうで実はそうではない設定、エピソード、カットがある映画はどうにもノれないんだがこの映画がまさにそうで、その上で未消化なエピソードや不自然な展開といい題材そのものの面白さをそれらが全て壊してしまったと言うか。山崎努本木雅弘ら殆どの出演者らの演技は良かったと思うんだけども例えば納棺の儀式的シーンで本来なら堂々と役者の演技だけで成立し得たであろうシーンにまで無闇矢鱈なカット割りと観客を感動へと導く為のBGM挿入の頻度の多さにウンザリしたもんですが… って事でこのゲンナリ気分と時間の浪費への不毛と苛立ちの責任は脚本と監督のせいでしょうな。
 
 あと、本編が男尊女卑的な感じがしてどうにも。
いや私、男っか中年男ですが、その私から観ても感情的で思慮浅く愚かしい女性達に比べると男側の方がどう考えてもいいポジション、見せ場があるんですよな… で、
「それってどうなんよ?」
 って思うワケですよ。
山形という土地っか風土の雰囲気なのかもしれんけど、あの本編での描き方はそうじゃぁなくて単に製作者側の心情的なものなんじゃね? としか思えないくらいに現代を舞台にした映画にしては本当に女性の扱いが雑で酷いと私は思ったんですよね… 心情も宗教も個人の範囲でなら別にどうこう言う気も無いんですが、物語として、作品として提示されたモノがあからさまな蔑視がベースにある上でのものというのは何かこぅ居心地が悪いと言うか、山崎さんや本木さんが納棺師という職業人(プロ)を役者としてのプロフェッショナルさで演じているのと比べるとますます作品っか物語にノれなくなっていくと申しますか…
 
 っか、お話が安直ですよね、どれも。
てっきり首吊りを下して、ってのをやるかと思ったらそうでもないし。全体的にどの御遺体も綺麗なのばっかりだし。あの死体特有の臭いを感じさせないのは演出だとしても妻の改心とか父親との対面への心変わりとか一つ一つのエピソードがどれも安直なのを台詞で説明してるけど、役者さんが演技で出来ているのに尚説明しちゃってから展開っか進行していくから退屈なんですよね。そのくせ無駄な設定やカットやエピソードはゴロゴロしているし…  
 
 まぁ考えてみれば私、滝田洋二郎監督作品ってどうにも相性が良くなくて、多分一番好みなのは『コミック雑誌なんかいらない! (1986)』なんだろうけど別に映画としての出来がいいとはこれっぽっちも思ってなくて部分的な同時代性への共感以外となると… 『木村家の人びと (1988)』『病院へ行こう (1990)』『僕らはみんな生きている (1992)『眠らない街 新宿鮫 (1993)』『陰陽師 (2001)』、そして本作といい原作等の素材は良いし役者の演技も悪くないのに… って思った作品ばっかりですからこういう感想を持ってしまったのかもしれませんが… この程度だからこその共感や感動、ってのは少なくとも私には不要ですね。何の、知的刺激にもならなかったし材料にもなりませなんだなぁ…