『Rab Ne Bana Di Jodi (2008)』

USA-P2009-09-14

 
大学時代の恩師の娘Taani(Anushka Sharma)の結婚式にと呼ばれたSuri(Shahrukh Khan)は彼女の美しさとダンスをしている時の明るさに見とれてしまう。大学時代は優秀で真面目な生徒として恩師に気に入られていたが卒業した今も冴えない独身のSuriにしてみれば素直に羨ましいと思う光景だったのだが、会場へと向かっていた花婿とその一族のバスが交通事故を起こして全員死亡という訃報にTaaniは泣き崩れ恩師は心臓発作で倒れてしまう。
「自分が死んだ後、娘を一人ぼっちにするのはとても辛い。君は私にとって息子と同じような存在だからもし君が良いのであれば娘と結婚してやってはくれまいか」
 何とか一命を繋いだもののもぅ医師に手の施しようが無いと宣告された恩師の頼みを受け入れSuriはTaaniと葬式と結婚式を終えたのだが…
 
 重なった不幸と失われた幸せに塞ぎ込むTaaniに母屋を与え、自分は離れの物置で生活する事にするSuri。確かにTaaniに見とれたし彼女の力になってやりたいとは思うもののしかし自分がどうしていいのか解らないしこれからどうしたものやらと悩みつつ出社した会社では既に彼が結婚した事が噂となっており皆で押しかけるとまで言い出していて。当惑しつつ家に戻ると玄関前で親友の美容師Bobby(Vinay Pathak)が
「親友の俺に結婚の事を知らせないなんて何て友達甲斐の無いヤツなんだ!」
 と暴れているので彼にだけは本当の事情を話すとBobbyは彼と彼女に同情しSuriに協力を誓う。
その晩、開かれたパーティーでは客に対して笑顔とそつの無い接客をしてみせたTaaniに改めて彼女への想いを抱くSuriだったがパーティーの後で彼女は
「私はあなたを愛するという事は出来ません。でもあなたの妻として見られるように努力します。」
と告げられ、翌日からは御飯やお弁当を作ってくれたり家の掃除をするようになったTaaniではあったが依然別々に寝起きする生活で、彼女の顔には笑顔は無かった。唯一、映画館で映画を観ている時だけは屈託無く笑っている彼女に幸せを感じるもののその分切なさを感じるSuri。
 
 ある日、大都会ムンバイからの素人参加型ダンス競技会のチラシを持って家に帰って来たTaani。子供の頃からダンスが好きだったので参加したいと言う彼女に何も言わず参加費を出したSuriではあったが内心は忸怩たるもので溢れていた。
「自分はダンスとか出来ない、気の利いた言葉もかけれやれない野暮天だ。でも彼女には幸せになって欲しいんだが自分には何も出来そうにも無い… 」
 と零すSuriに
「野暮天だって? だったら変わればいいじゃぁないか。ここに町で一番の腕利きの美容師がいるんだぜ?」
 とBobby。髪型を変え、メイクを施し、流行の服装を身につけたSuriは別人のようになり、ただこっそり妻の姿を見ようと思って行った競技会会場で偶然にも妻とコンビを組んでダンスをする事になってしまい、名を問われて思わず「Raj」と名乗ってしまった為にSuriとの二重生活が始まる。
 
 Rajとなった時には何故か自分でも思ってもいなかったような積極さと軽口がポンポンと飛び出るキャラクターになっているのに戸惑うSuri。RajがSuriとは気がつかないままに次第にRajに惹かれていっているのに気がつき戸惑うTaani。初めはただ妻がどうしているのか覗くつもりの変装の筈がそうではなくなっていき、
「これは神様が僕達に与えてくれたラブストーリーなんだよ」
 と喜んでいたのも一時、二人が仲良くなればなる程に地味で面白味の無いこれまでの、本来のSuriとしての自分の存在価値を情けなく思うのだが、しかし彼女は塞込んでいる頃よりは変わってきているように見える以上、Rajを止める訳にもいかず…

 

 
 2008年の年間興行成績第二位というヒット作、というのもさる事ながら映像の綺麗さもあって気になっていたインド映画でしたが、いやぁコレ、素直に楽しめましたね… 一つにはやっぱり映像の綺麗さ、特にOPの何気ない風景のカットでも解るんですが無理に奇を衒わないもので気持ち良いものですが、それを損なわない美術とカット割りとテンポの良さが最後まで続いて2時間40分チョイって尺を感じさせなかったんですよね。
 次にやはりシャールク、真面目なSuriとお調子者のRajの二役を映画上で上手くやっていて、ぶっちゃけこんな細かい演技の出来る人だとは思えなかったんでそれも楽しめましたね… 特にSuriの時の控え目で様々な感情を抱えつつもどうしたらいいのか、どう伝えればいいのか解らないというのに悩む彼氏は観客の同情とか共感を引くのにいいんではないかと。
 そして脚本と演出。細かい事なんですが、私も英語で粗筋だけ読んだ時には
「いやしかし夫がRajだと気がつかんかね?」
 と思ったんですけども、本編では確かにSuriとTaaniは殆ど一緒の時間を過ごしていないし喋ってもいない… Taaniが時折話しかけるのに対して短くSuriが答える、というのだけ… や、最初の頃に映画館にバイクで行く時ですら後部座席に腰掛けるだけで手すら廻していない、等の肉体的な触れ合いをTaaniがしようとしていないってのもあって、そないに無理目にはなってないんですよね。ましてSuriとRajとの二重生活になると夫婦の時間なんて殆ど無い事になってますし… と、演出が実に細かく、気配りがきいているんですよね。また主要登場人物が三人… Suri、Taani、Bobbyって三人だけなのも解り易い上に、次第にコメディ調からシリアスなトーンへの移行といいインターミッションの絶妙な位置、無理にシリアスな後半でギャグパートとか悲劇パートとかで転調を挟んだりしないで本筋をシンプルにまとめていたのも良かったんではないかと。
 
 そしてこれはあまりインド映画を観ていない私だから気になったのかもしれないのですが…
 
 私が思い返すに、インド映画で食卓やレストランのシーンはあっても本作のようにある種の隠喩と言ってもいい直接的な食事のシーン(ゴルガッパの食べ比べんトコとか結構ドキッとしましたなぁ…)を筆頭に、この映画の色々なシーンが自己存在確認とコミニュケーションの物語とエピードにも観れて、そういう描き方と題材、そこがまたすごく面白かったんですよね。普通のロマンス映画で心理描写や比喩的なダンスシーン等というのは珍しくないんですけども、あまりこういう隠喩的なシーンってそんなにインド映画では観た記憶が無いんで逆にスンナリ観れた、ってのがあるかもしれません*1。で、その行き着く先が自己確認の上での自己解放と相互承認ってのはもっと観た事が無いんですが、それがちっとも厭味じゃないしそない無理目でもないくらいのものにした、ってのが私にはとても心地よかったんですよ。主人公の自己確認や自己実現だけの映画だけならいくらでもありますが、これはそうではないんですから。しかもウェットになり過ぎずユーモアも交えて、だなんて!
 SuriにしろTaaniにしろ、自分がこれまで生きてきた事を枠として生活しているからこそ噛み合わないし擦れ違いにもなるのを、それぞれが自分自身のやってみてなかった事や考えもしなかった事に向き合う事での自己発見と確認をしていくんですよね… で、まぁそれには当然磨り合わせも必要になってくるんですけど、その進行がダンスでも表現されているんですよ。そういうのも含めてだからコレ、インドの人ならばまた違うんでしょうけどまさに現在カップルとか夫婦の人が観るとより面白く思えれるんじゃぁないんでしょうかね… まぁ男寄りっかヒロインにアレな傾向はありますがマッチョ談義のオチとか、そない男の都合ばかりでも無いと思いますし。むしろバイクのシーンとか旧来の男の中にある女性感を軽々と笑いのネタにしたりというのやらサブエピソードを殊更に大きくして物語をブレさせないで最後にちゃんと小さな町に住む夫婦の物語として収束させた点*2といい私はこの映画、大好きですわ…
 
 ただ望むならば! 昭和新山を富士山と言って欲しくなかった!(笑) ってのは兎も角、最後に互いを曝け出してのお互いを迎えたハッピーエンドにふさわしい明るくて楽しいダンスシーンが欲しかった! 途中までの楽曲っかミュージカルシーンも良かったんですけど、「Haule Haule」「Tujh Mein Rab Dikhta Hai」がSuriの、「Phir Milenge Chalte Chalte」がTaaniの妄想っか心情で、「Dance Pe Chance」が双方の途中の過程でしたから最後にエピローグはあれでいいとしてもフィナーレとして二人の幸せと喜びをあらわすダンスシーンがあったのなら私的には最高だったよなぁ… まぁ実際あったらクドイと思うかもしれませんが(笑)、あと一押しが欲しかったなぁ… っと。でも私が今年観た映画ん中では間違い無くトップ3ですね。単なるラブロマンスだけならば私はこうも気に入る事はありません。今という時代を舞台にしつつもそこで終わらせなかった、逆に言えば舞台が現在であってもセオリーが従来通りな作品群もいいけれども、そこからちゃんと一歩踏み出した上でのハッピーエンドのこの映画は好きですわ…
 
 っかね、今日本で正規版がリリースされるのならば、確かにインド映画らしい豪華俳優の作品とかの方がいいのかもしれませんが、こういう今の時代の作品こそリリースしてはくれませんかのぅ… っか、何のかんのと言ってやっぱりインド映画は劇場のスクリーンの大きさを考えて作ってるからやっぱりDVDだと物足りないっすよ。クライマックスのダンスシーンもそうだけど所々で劇場のスクリーンを入れ子っての? 箱庭のように使うってのがあるしねぇ…
 

 
 とか、やっぱ劇場の大きさで観たいなぁ…
 

*1:インド映画の場合説明的な分、普段の欧米映画を観る感覚で観ていると考え過ぎになったり意味が違ってくる場合が特にエンターテイメント系では多いように思えるんですけども… 

*2:ダンス大会での最終結果っか順位が目的・ゴールではない、ってのは結構重要だったかも。