『らくごくら』#41 「第9回朝日いつかは名人会」(前編)

 出演順が芸歴で、本来ならば技術っか芸の腕もこの順になっている筈で、実際に経歴からも観た印象としてもこの順でいいとは思うものの、しかし私らが楽しんだ順、となると実は
春風亭一之輔 >>> 柳家小ぞう > 古今亭朝太】
 ってなりまして…
 
 まず前座の小ぞうさんの「子ほめ」、本来の私からすれば
「前座さんのウチから自分のギャグとか仕込むってのはどうよ? その前にまず前座さんならキッチリと基本を覚える事からじゃぁないの? 正直、まだそういう事をする技量があるとはちょっと思えないんだけど… 」
 と思うようなアチコチに現代的な部分を加えその分ちょっと長くてクドい「子ほめ」だとは思うんですけども、喋っている当人の雰囲気と声が噺に合っていてこれが嫌な気にならないんですよ。
 で、今まで色々な前座さんでこの噺は聴いているんですけどこの人より上手い人はいくらでもいると思うんですが
「ただの酒、一杯飲ませろ!(笑)」
 と臆面も無く言ってもそれが厭味にならないだけでなくその無礼さも何となく苦笑で許してやるような雰囲気と声のトーンなんですよ。滑舌がいい訳じゃぁないし人物の演じ分けを上手くやるだけの技術も声域もあるとは言い難いんだけども地の雰囲気が噺そのものに合う事の強みがあると申しますか… だから今の時点で人情噺や怪談噺をやって似合うとは思わないものの、多分同じ前座噺でも「道灌」や「松竹梅」なんかもイケそうだが「金明竹」「寿限夢」なんかはちょっと違うかなぁ… 勘当された若旦那物とか「親子酒」なども合いそうだなぁ… とか、色々と思うくらいに雰囲気の明るさと柔らかさ、緩さが好ましく思えて。
 
 で、次の春風亭一之輔さん、声がいい。低音域が太めで安定していて聴いていて耳に心地良いんですよ。それに加えてお歳に不釣合いな落ち着いた雰囲気で、ちゃんと人物の声色の使い分けも出来てるだけでもいいのに今回の「鈴ヶ森」、手下が大抵馬鹿か与太郎みたいな造形が多い印象があったんですが、何だかんだと言って人のいい親分をからかってるような感じになっていて、そんな二人双方のおかしさに素直に笑ってしまって。無駄や蛇足の無いすっきりした噺を綺麗に語ってみせるんですから聴いていて、観ていて安心出来るんだからこれ以上何の文句もありませんっての。所々での声色でのメリハリやドスの利かせ方も通るしで、これまで観てきた二つ目さん達の中でもかなりの好印象を持ちましたよ。
 
 っと続いていたので期待値が上がってしまったのですが古今亭朝太さんの「火焔太鼓」、多分御本人にあまり気持ちが入っていないのもネタの仕込み忘れ?ってな箇所もいくつかあったんでしょうが特にコレという印象が残らない、何て言っていいのか… 二つ目さんが覚えた噺をただ喋っている、ってだけにしか聴こえなくてかなり退屈だよなぁ… っと思ったのも声のせいではないかと思いまして。滑舌がそれ程いい訳でもなさげで音域もそれ程あるとも思えない声の場合、テンションと声の大きさだけではいまひとつ、メロディとトーンで変化なりメリハリをつけないと平坦になっちゃうじゃぁないですか。で、当人ならではの工夫ってんですか? 持ち味みたいな物も特に見当たらないしであんまり落語を聴いているってよりは気の薄い一人朗読を聴いているような印象しか残りませなんだが…
 受賞暦からいっても古今亭朝太さんは実力があるんでしょうし、違う場でならまた別の印象にもなったのやもしれませんが、この会においてはもうひとつ、としか思えませんでしたわ…
 
 
 
 さて次回はプロ野球シーズンだからかいつもの日曜日ではなく5/1(木)の午後3時半から放送の#42『朝日いつかは名人会』(後編)、トークショウの後は柳家喬太郎師匠による「錦の袈裟」、楽しみでございますこの番組は。最近、NHKの演芸番組も一応観てはいるんですが気持ちのあまり入っていないTVでの有名人のが多いのに加えて上下にあわせてカメラをスイッチしたり妙なアップにしたりと解り易くするつもりなんだろうけど落語の映像としては不適切なのにイライラする事が多いのと比べるとカメラの寄り等を必要充分程度に抑制してちゃんと見せてくれるこの番組があったからこそ、寄席が無い田舎にあっては「寄席で演者と演目を知っている上での」って形式ではちょっと辛いと言うか物足りないと思う私が落語という古典芸能にまた興味を持つ気にさせてくれたこの番組の、特にこの企画は好きなんですよ…