くるま、車、クルマ。(その7)

 
日常使う道具をファッションで選べられる人は羨ましいと思う。妬ましいとも思う。確かに障碍者手帳を持ってはいても私の日常には今んトコロ介護も介助も道具も器具も設備も必要は無い。が、それはあくまでも「必要が無い」というだけで、不都合や面倒事というのが無い訳ではなくて、幼少の頃の花火遊びが元での大火傷で失わなかったものを機能を代用し、応用し、対応しているだけの事で、それは苦ではなくとも楽ではない事の方が多くて。
 

 
例えば親指を使わないでペンで字を書く、とか。まぁ、練習はした。お蔭で普通に立ち食いの店で割り箸で蕎麦を喰ってたりするけど、場合によったらマイフォーク&スプーンを携帯していた現在もあったかもしれない。大豆だってつまめるけど、それはそれだけの事。ただ、力の入れ方次第では品質の悪い割り箸だと折れるから加減に気を使う頻度は普通の人よりは多いんじゃぁないかな?とは思う。 
 

 
この左手で携帯電話をどう使うのか、とか。初めて自分の携帯電話を購入する時には慎重に何種類ものモックアップを試してやっぱり折り畳みには不安が残ったのでスライド式のにしたけど2年くらいで本体もテンキーもガタガタになってしまって。今のIS05はもぅ5年目で性能的にはとても苦しいけれど今時のデカいファブレット紛いの大きさでは手でのホールドが難しいので買い替えも出来ずにいる。薄型のなんか割りそうだもの。
 
関節が全て機能している指は両手で3本、なので健常者の人とは手に指にかかる力と角度が違うから、歪んだり壊れてしまう物も決して少なくはなく。なるべくそういう負担にも耐えるよう機能的には過剰よりも質素でシンプルな構造と機能でないと、と。自動車においてもそうで、近年流行のステアリングにオーディオやクルーズコントロールのスイッチやパドルシフトといったものは邪魔にしか思えない。普通の人ならばさして意識しないでも済む操作や動作であっても私にとってはそうではないから避けるべきで、オーディオなりエアコンなりにしても性能がいくら良くても便利でも私にとって使い辛い代物では困るワケで。今のランクスのエアコンのスイッチの接触不良にしても喫煙だけが理由とも思えないんだよね…
 
身長が182?、体重が80キロ台後半って体格でなければまた違う世界も選択もあったんだろうとは思うが、それは私が親が誕生日祝い用にと隠していた花火を勝手に持ち出しての全身大火傷を負わなかったら?と同じくらいに答えも無いし想像のしようもない話で。所詮配られたカードで勝負するしか無いんだけど、そもそものカードが足りない時に奪うのでも盗むのでもなく、勝負を逃げる事もしないのであれば… なるように、あるように、しか出来ない訳で。そこで足りないモノについてどうこうと言っても恨み辛みに妬みに僻みにしかなりゃぁしないんだから… と、諦念半分、未練半分な気持ちに今でも、アラフィフになってすら思うのだから天命を知るなんてのは多分死んだ後なんだろうなぁ…
 
 
 
…とか、メインバンクにマイカーローンをケンモホロロに一蹴された時には現実逃避で考えておりました。いやまぁとりあえずのネットで立てた見積もりでは候補+オプション+なんやかんやの合計が200万前後だったんでとりあえずそれで申し込んでみた訳ですが、確かに年収の3分の2程度ではあっても借金は無いし給与振り込み口座なんだから希望金額全額は無理にしても…と思ってたのがもぅバッサリ。障害者の立場っか社会的信用なんてこんなもんなんだろうかね… 今の会社でリーマンとしての30年近くやってきた事の結果もこんなものなのか… と落ち込みもして。とりあえず、中学生の頃に口座開設してこの20年くらいはキャッシュカードの支払い口座として利用していた地元最大の銀行の方にも同額で申し込んでみたものの、まぁメインバンクがこんな扱いだったし… って事で、あんだけ詳しく調べてプリントアウトまでした新車は諦め中古車で遣り繰りをしていきますかねぇ… と日々カーセンサーやらガリバーやらの中古車情報を検索し検討していての数日後、携帯電話にかかってきた大垣共立銀行の人に
「仮審査で、ですがご希望額、全額融資が可能です。」
 と言われた時には一瞬頭が真っ白になってしまって。多分、一蹴。良くて一般的なカードローンの上限30万程度だと思ってたから全額オッケーが出るってのは全く想定していなかった。買えてしまう。自分が候補の中で一番良いと思った車を、自分が必要だと思うオプションを全て装備して買えてしまう。まぁ、ローンではあるけれど生活を苦しめる程ではない回数だし… ってトコで我に返って。
「すいません、これ、あくまでも仮審査、ですよね? 本審査、場合によっては駄目になる事もありますよね?」
「まぁ確かに可能性という事で言えば絶対とは言えませんが、仮審査が通った時点でほぼ大丈夫だと思いますよ」
「仮審査では全額でも本審査では減額って事は?」
「まずありません。」
 買えちゃう… って思考が飛びそうになるのを堪えつつ、今更ながらに気がついた。
「実は融資の額によって候補の車を決めるつもりでいたんで具体的な額は決まってなくて、あくまでネットでの色々な見積もりの上限を申し込んだんです。なので… 本審査申し込みの時に200万って額じゃなくて、極端な例で言うと100万とかって減額しての申し込みになっても良いですか?」
「ええ、そういう事情でしたら別に。額を増やせ、ってのは困りますが(笑)」
 細々とした取り決めをして電話を切った後、湧き上がってきた感情は安堵でもなく喜びでもなく混乱だった。
 
 買えちゃう…
 
自分の自家用車遍歴で初めて、自分の要求と嗜好を元に決定する事になる。条件も環境も選べられる、という事は自分の日常生活にもある程度の選択をする事でもある。例えば、駐車場を違う場所で借りる事で車体サイズを変える事だって可能になる。申し込んだ融資希望額というのはそれも出来なくはない額で。まぁメーカーはディーラーの立地に拠るからホンダと三菱が無いのは相変わらずだけどトヨタならオーリスとか外れたものだってあるのがそれが候補になる。うん、全く金額や利便性やら何も考慮しないで好きな車を買ってあげるよ整備点検費もいらないよ、ってのなら
 

 

 
とか言うかもしれないけど、まぁそれは妄想。大垣市という場所で今の暮らしにはどう考えても過剰。ローンも利用する以上、考えるべきはファッションよりもライフスタイルであって… 諸々の書類を持って銀行側の都合と私の都合で本審査申し込みは2週間後にしてもらったがその間にディーラー巡りをして最終決定をし、申し込み時に必要な完全な見積書をディーラーに出してもらなければないが…
 
 どうしよう…
 
選択肢がある、というのは良い事ばかりでもないなぁ… 貧困のスパイラルとか再生産とか言う人もいるかもしんないけど、制限があるからこそ楽しめる事も決して少ないないし、それが全部悪い事ではないんじゃぁないのかなぁ… と、改めてイマサラに思うくらいに戸惑ってもいて。(続く)