『塔の上のラプンツェル (TANGLED (2010))』

オリジナル版ポスター

 
 ディズニー長編アニメーションの記念すべき第50作目、なれどアカデミー賞 ゴールデン・グローブ賞放送映画批評家協会賞いずれもノミネーションのみで無冠、タランティーノ監督の2010年お気に入り映画ベスト20の5位に入ってはいるが何れにしても前評判としては『トイ・ストーリー3』程ではなく… 全米一位を2週目で獲得、とか、アメリカ国内だけで2億ドル弱、世界でなら現時点で約5.6億ドルという興行成績は常ならば宣伝の売りにもなろうが同年に『トイストーリー3』という桁違いの化け物がいては… というのに加えて日本での公開日が2011年3月12日、というのは本当にタイミングが悪いとしか言い様が無いのだが… 

 本作、劇場で3D版を観まして凄く感動をしまして。その出来の良さに館内の小さなお子様からお年寄りまで皆無駄話や携帯をイジる事もなく最後まで集中して観ていたくらいで家に帰ってからも妻と感想を語り合い今月末にリリースされる北米版Blu-rayの予約をしてしまったくらいに本作に惚れ込んでしまったのですが
「じゃぁどういうトコロが凄いと思ったのか?」
 となると、通常の私ならばアレコレと良いトコや個性を挙げる事が出来るんですけど本作の場合はそれが出来ないんですよ。あえて書くとなると野暮にしかならないんですが…
 
 
 登場人物の外見も含めた造形は現代的ではあるけれどそれが作品の要ではないし、物語としては非常にシンプルで自立や自己確認といったのはあくまでも物語要素の一部であって作品通してのテーマでは無い。観て楽しむ娯楽としての映画として徹底して無駄を省いた作品であって、そこには大人の視点ですかね… 必要な事は全て画で見せてしまうその為に作り込む部分は滅茶苦茶に作り込むんだけどそれは「必要な事を全て画で見せる」為であってそれを売りにする為に必要以上のエフェクトやカメラワークにしないんですよ。むしろ必要ではない物にしては徹底した無駄の排除を行っていて例えばラプンツェルがお祭りでダンスをするシーンなんだけど普通だったらモブキャラとかにも喋らせ効果音をどんどん加えて賑やかさや楽しい雰囲気を盛り上げていく演出をしがちだけど本作では台詞も効果音も必要最小限で映像とBGMのみで時間経過と気持ちの高揚を見せてくれるんですよね。観て解ればいいし解るように作り込んであるんだからそれ以上に盛り上げたり伝る必要が無いからやらない、というのが本当に最初から最後まで徹底しているその製作姿勢ってのが私らにはとても気持ち良かったんですよ。
 
 技術も演出もキャスティングもテーマも設定も物語も監督やスタジオの個性も売りではないんです。1つ1つの事柄・要素で言うならばもっとモデリングを作り込みした作品、3D効果の為に演出特化した作品、著名有名人がキャスティングされた作品、時代や社会に訴えるテーマ・テーゼの作品、特異や個性的でそれ自体がテーマでもある設定や物語の作品、とか、本作よりも優れた?突出した、目立ち、解り易い作品は一杯あると思うんですが、本作はあえてそうはしないにも関わらず素敵で楽しい作品に仕上げたそのセンスの良さ! あえて言うならば情熱をもっている大人が手間暇かけてつつも節度をもって披露した作品ではないかと。しかもその大人はアニメーションに限らずクラッシクも含めて様々な作品を観てきてそれを無理に今の技術で倣い・再現させるのではなく今の技術だから出来る事もやって見せてくれたんですよ。


 
 だから、物語そのものにおいては語るべき部分は観客には殆ど無いんです。
「楽しかった」「面白かった」
 という感想と、台詞やクローズアップ等での説明をしていないけどちゃんと描かれている事を語れるんです。そして、そういう作品だからこそ例えばフリンの腰に下げられている小物袋等のように、必要ではない物は描かれていない本作であるからこそ劇中で使われなかった小道具等についての想像の余地を語り合う事が出来るんですよ。そんな作品を観たのって何時以来なんだろう? なんて素敵な作品なんだろう! ってのが私らの惚れた部分なんですよ。
 
 
「なんだかんだと言ってもディズニーを観ておいた方がいいんだろう」
 って勝手な使命感を抱いていて『美女と野獣』に劇場で感動してしまったけれどそんな幸福はずっと来ず『トレジャー・プラネット』で心底萎えて以来ピクサーは兎も角ディズニーの長編アニメーションを劇場に行く事はしなくなってから約10年が経過しましたが本作はあの時の劇場の感動を思い出させてくれました。久々の劇場での作品観賞でしたがそれが素敵な作品で本当に良かったです。ただ、ここまでの作品と出会えれるのは何時になるのか… また20年かかっちゃぁ嫌だなぁ(笑)。