『カールじいさんの空飛ぶ家』

 
 
 
 ピクサーの作品は毎回上手いし凄いとは思うものの手元にソフトとして置いてあるのは

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 で、好みという点を置いておいてもメッセージ・テーマとのバランスと作品の出来としても一番ではないかなぁ… と思っているのですが。ちなみに『レミー』と『ウォーリー』は未見ですがただ単に予告編を観て自分がピンとこなかったからですんで後でどうなるのかは解りませんが… というのはさておき。
 
 そんな自分が大好きな作品の監督の2作目で、しかも米国予告編の素晴らしさったら!
 

 
 『Up』という意味深っか幾重にもとれるシンプルな単語の題名といいかなり期待をして観に行ったんですが…
 
 個人的にはもひとつ。
 
 映像的には抜群で、ただただ感心するしかありませなんだ。大垣では2D吹き替えのみの上映だったのが嫌だったんで北方のリバモで2D字幕版で観賞したんですが、本来は3D版であるこの映画であってもその迫力、デザイン、動きはまさに3DCGでなければ表現出来ないものでありつつも単にリアルを追及するだけではないデフォルメの巧さもあってのもの。また色彩が非常に良いのもあって映像的には楽しんだんですが肝心のストーリーが、ねぇ…
 
 二人の結婚から現在へと至る台詞無しのシーンの音楽とカットの巧さにはもぅ泣き殺されかけましたよええ。エピソード部分とそうではない日常風景の入れ方ったらねぇ… 特に玄関でエリーがしめてあげるネクタイで時間の流れを示してのトコとかねぇ… ってのでハンカチ出してのダダ泣きでしたよ(←感情移入し過ぎ(苦笑))。が、そこから後の物語が動き始めるあたりからもぅ荒いんですよ、何もかも。
 
 例えば最初も最初、フレドリクセンの家のある周辺が再開発になっているのを見せたのはいいけど、飛び立った後での街の景色で何故その地域がどういう目的での再開発を行っているのかが解らないんですよ。既にもぅ都会になっていてビル群のど真中のエリアであの区域だけ開発が”今”行われているだけの理由が風景に無い、ってのを説明する必要は無いんですよ。しかし、そこまででもぅ家に固執するしかなくなってしまったという状況を語ってもいないから足りていないんですよ… カット、エピソードという点が連なって紡がれる線がフレドリクセンの心情の変化という物語の軸になる筈なのにまず線になれてないくらいにスカスカと言いますか… っと、一事が万事、何となく想像して補完は出来なくもないけれども人物造形やら設定やらに説明不足や疑問点が少なくない… 更に例えば、だけど、
 

  • ケヴィンは何故東洋系でなければならなかったのか?
  • ダグだけ他の犬と種類が違うだけでなく(デフォルメ具合も含めた)デザインまで違うのか?
  • 独自にGPSバウリンガルを作れる技術力と資材もあり、しかも飛空艇まで持っているにも関わらず石の谷のマッピングが出来ていないのは何故?
    • あの格納場所にずっといた訳ではないようだが資材や食材の調達とその資金をどうやっていたのか?

 
 …ままに物語が進行していってもあんまり私はノれないんですよ。と言うか、家に帰ってから『モンスターズ・インク』(以下『MI』と略)を観直してみて思ったんですけど、『MI』が言葉での説明はしていなくても映像や動きでの伏線や描写を丁寧に重ねていたのと比べると本作はそういう点で説明不足もあってちょっと荒いと言うか雑に見えてしまうんですよ。
 
 飛翔に際して予備や帰りの分のボンベや風船を用意していなかった点からしてフレドリクセンはパラダイスの滝で自分の死を迎える為の旅立ちだったのは解るんですよ。だけどエリーへの愛は描けていたけれども彼女との家での暮らしや家にある様々な物や家具や道具への愛着となるシーンを描いていない… 冒頭の向きを直す鳥の置き物1つだけでもそういうカットを入れていてくれればいいけれどそうではない… から、どうしても家の存在だけでなくフレドリクセンというキャラクターすらも薄くなってしまったというのに、その決意を翻す事となる、何時まで生きていられるかは解らないけれども未来という希望の為にとして家や憧れの人との対峙、対決、決別がドラマになれないんですよ。で、ドラマが無いままのクライマックスがアクションとなっても、アクションシーンとしてのスリルはあってもシーンの最後がクライマックスのカタルシスにならないんですよ。対決しなければならないというお話の流れとしては必要ではあっても、その対決にテーマっか意味が無いに等しいから盛り上がらないっか物語としてのシークエンスにならないんですよな。で、そうして迎えたエンディングに何が残っているのかと言うと… 特に無いんですよね、私には。
 クドいんですが『MI』でのエンディングではサリーの顔とブーの声だけで成立してるんですよ。正直、ブーの声は要らないような気もするしあってより良かったという気もするけれど(笑)、あれ以上はもぅ描く必要が無いハッピーなラストシーンになっていたじゃぁないですか。だけど本作ではその後をあそこまで描いてみせていても本編で理由も説明もドラマも無いからコレという感慨も特に感じなかったんですよ… って事で、
「3Dで観るのならば料金分は楽しめれると思いますが、2Dだとちょっと微妙。」
 というトコではないかと。
カット、シーン単体では凄いと思うしギャグも好きなんですけどね… でも、これまでのピクサー作品と比べても正直言って落ちるなぁ、っと。老人の再生と解放と言うのであれば

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 とか、素敵な作品はいくつもあると思うと、ねぇ…