天満天神繁昌亭 『東西同級生。』

香盤

 

 2000年に入門した、と言っても師匠が皆違う人達を集めての企画はさてどんなものか? まぁ私は一之輔さん目当てだけども入場時に貰ったパンフレットではトップバッター…
「一之輔さん以外みんな知らんもんなぁ… これでは辛いなぁ… 」
と多少ゲンナリしたものの会場は一階がほぼ埋まるくらいのお客さんの入り。殆どが関西の人達だったようですがキャリアから言えば二つ目クラス、しかも平日の夜という条件でこれは結構な集まりではなかったんではないかと。東京からの遠征組の方もみられたような… って私も有給消化の名目で会社を休んで来てるんですが(笑) というのはさておき。
 
 開口一番の吉の丞さんの「時うどん」、江戸版の蕎麦を饂飩に変えただけのもので本来の上方の「時うどん」とは違うものでありました。口調は悪くはないんですがちょっと喬太郎師ちっくな演出の入れ方?も含めて言葉は関西弁なだけにちょっと変わった印象で面白味がありました。
 
 一之輔さんの「初天神」は冒頭の長屋の下りが無く団子屋まで、という短縮版でしたが自分にとって一番しっくりときて一番面白い「初天神」でしたわ。これまで聴いてきたのでは金ちゃん(若しくは寅ちゃん)が生意気な子供、というものだったのと比べると一之輔さんの金ちゃんも確かに生意気なんだけどもそれは何処かしらお父さんを見てそうなった、というのが会話の部分から解るんですよ。で、お父さんも困ってる半分そんな金ちゃんと楽しんでる半分といった雰囲気が特に強調したり噺をイジったりしていないんだけどもちゃんと出てきているんですよね。
 ちょっとご緊張なされていたのかテンポが若干早めだったくらいですが、初めての繁昌亭とは思えないその高座姿の安定感、夜席には本来いない筈なんだけどもいた子供達も上手くイジってのといい、出来れば長屋から最後の凧揚げまで一席、聴きたかったですなぁ… でもやっぱ一之輔さんはいいですわ!
 
 佐ん吉さんの「手水廻し」、田舎者を哂うタイプの噺なんで私の好みじゃなかった、ってのもあるんですが隣村の源助以外は皆関西弁ってなっていたのがなんか個人的に駄目。発端の宿屋に泊まっていた大阪の客人がお大尽ってのもどうかと思ったんだけども宿屋の主人も女中も板前も全員そのお客人と同じ言葉を同じように喋っているのに手水を知らないってのはあるんでしょうかね? とか、兎に角噺のデティールがちょいちょいおかしいもんでどうにもノれず喋りのトーンのワンパターンさといい凄く退屈でしたな…
 
 鉄瓶さんの「四人ぐせ」も同様。マクラのヤクザの噺がまずディティールがおかしいから雑で雑で、ただの作り話にしか聞こえないから白けきってしまいましたがそこから入った噺の方も四人が四人とも同じ人間にしか見えないのをクセのわざとらしい表現で、ってしてるようにしか見えないんでもぅ個人的に駄目。違わなくてもいい噺ではあるけれども全く一緒ってのでは… あと羊羹の下りとかやっぱりデティールのつけ方が雑だし噛むし間違えてるトコがあるしで、こちらに笑いを強要する前にまず噺の地と言うかデティールをしっかり押さえてもらわないと正直言って… まぁ二つ目さんクラスというのは本来こういうものなのかもしれんのですけども以前『らくごくら』で観た時はこんな酷くはなかったような… ま、どうでもいいんですが。
 
 で、スッカリ気落ちしての王楽さん、成る程親子だなぁよく似てるお顔だなぁ… とは思いつつも何処かしら不思議な味のある淡々としたマクラでさて?と思ったらいきなり「らくだ」をかけてきたのが解ってます吃驚。ここまでの出演者が短めの噺できたからトリとしてって事なんでしょうが四十分くらいかけてタップリと、ってのはいい度胸してるなぁ… いやしかし2月ったらまだ時候外れではないよね(笑)とか思ったものですが、技術があって面白かったんですけど好きじゃぁなかったですね。と言いますか、半価ではない腕がある分だけ「らくだ」という噺に対するスタンスや考え方の違いでの好みで、って話なんですが「らくだ」は性善説の上での噺だとは思えないんですよね、私は。そういう生き方しか出来ないって人もいるし、そない奇麗事ばかりでもいられないって私は思ってますから。でも語る王楽さんは登場人物も世界観も性善説の上のものだと細部を変えてやっている姿勢は好き好きだと思います。私は好みではない、というだけの事です。今回のメンバーで、でなくてもニンとしてなら一之輔さんで観てみたいな、っと。ただそういう解釈とそう信じて演られているのは面白く思いましたよ、っと。