天満天神繁昌亭 『染二百席錬磨 激突!上方落語面長派!』

ポスター。

  • 笑福亭たま 「兵庫舟」
  • 林家染二 「辻占茶屋(初演No.95)」
  • 雀々 「鼻ねじ」
    • 中入り
  • Wonderful佳恵 「マジック」
  • 林家染二 「死神」

「落語は草履履きの芸。ふらっとのぞいて楽しんでいただけたらうれしいです。」
 と染二師匠からお言葉を頂き、本来はその通りなんだろうけども草履でふらっと行ける程度の場所に寄席の無い田舎棲まいで、しかも観たい人というのは既に相当のファンがついていてウカウカしてたらチケットを入手する事もままならない… 今回の落語会にしたって4月に入ったくらいでぴあ、ローソン、サンクス、繁昌亭窓口での予定枚数終了… という情況では、ね。
 ただ、そういう田舎者でも本場のホームグラウンドでの本来の演者の姿が観たいからこそこうして電車に揺られて大阪にも来るわけですが、
「自分のような人間も混じっていてもいいものなんだろうか?」
 と思う事も無くもなく。
普段から身近に気軽に接しておられる人達を前にしてこそ出来る事もある筈で、そういう場所にそうではない田舎者が混じれば絶対に解るしそのせいで出来る事が出来なくなってしまう可能性ってのもあるワケで… まぁ演者の邪魔にならないようにとは思ってはいるんですけども… いや別に卑屈になってるワケじゃぁないんですよ。ただ、観客によって同じ噺で同じ台詞であっても演者の演出によって全く違う噺になるのが落語じゃぁないですか。で、その変化ってのかなぁ… 違いが自分の好む方向へ、ってのならばそりゃぁ客冥利でしょうがそんな事はまず無い訳で… そんな「解る」客では無いですからねぇ私… そうではない方向へ、ってのが自分のせいもあっての、という事になるのはやっぱり客としては拙いと思う訳で… というのは自意識過剰とも言い切れない経験がございますと、ねぇ… というのはさておき。
 
 今回の企画を見て、
「落語会としてまとめるのんコレ?」
 っと思った構成ではありました。世間的にはパワフル、賑やかな印象の強い噺家のお三方ではありますが私にはそれぞれの嗜好と言うか思考というか志向と言うか指向の違いが素人目に見てもまるで違うお三方をまとめて観れるなんて!っと小躍りしたものの、とれたチケットが二列目だったのを見た時には流石に私も中てられてしまうんじゃないのん?と思ったものでありますが、その事前予想はある程度は当たり、ある程度は外れましたが多分、それらの結果を含めてこの火の、もとい日の落語会はホームならではの面白い会だったんではないかと思うのですが…
 
 …って事で、以下は素人のダラダラ書きなのでお暇な方だけ
 
 まずは生高座で見たかった笑福亭たまさんから。
以前、落語体験ツアーで間近に観た鼻っ柱の強そうな御尊顔が気に入っていたんですが、これまで『らくごくら』と『笑いがいちばん』でしか観た事が無かったんですよね。でもただ派手なだけでなく技術と頭の良さも見えていたもんで上方の若手噺家の中では私としては一番の御贔屓になっていたんですけども、実際の高座姿はすらり&すっきりとした姿がまず目にいい。そして始まる「兵庫船」、一席目という事でか場面と人物をザックリとカットしつつも残し分をしっかりとやられるだけでなく膝隠しを使った演出といい、いやぁやはりこの人もいいわ。オーバーアクトな箇所もあるんですけどそれは人物の特徴づけの為で、人物の演じ分けがごっちゃになる事も無く。鳴り物に飲まれない声と所作といい、いやぁこの人はもっと観たいと思った一席でございました。いやこれで完成形ではないのも解るし伸び白も見えるし、それでいて無駄が本当に無い。カッティングの上手さにあの声量と雰囲気、いやぁいいなぁ… 花@花寄席だって観たいが、やはり単独の落語会に行きたいなぁ… ホント、聴いていて楽しいのとその微妙なコントロールへの神経の使い方に観てるこっちのテンションと体温上がりましたもんなぁ…
 
 次いては染二師匠。Wonderful佳恵さんの紹介をしてからのマクラで入った「辻占茶屋」。よくまとまっていたとは思うんですが、今日の日に備えてってより単純に面白くて先日放送された染丸師匠のを何度も観ていただけに
「染二師匠にとっての想い入れとかがもうちょっと見えたらなぁ… 」
 と思ったのも正直なところで。
人物の設定の微細な変更の部分に染二師匠ならではの理が見えましたし非常に抑制されて綺麗なんですが、その分愛嬌にやや欠ける印象と申しますか。ただ初演という事ですし、これからどう染二師匠なりの形になるか、でしょう。初演という点では非常に染二師匠らしい繊細さに満ちた、観ていていい気持ちになれた高座でした。
 
 そして雀々師匠の「鼻ねじ」。これは… もぅ何て言っていいやら。
以前にも書きましたが私は雀々師匠が考えに考え試行錯誤の上に徹底してやられている事は承知していても好きではないんですよ。これはもぅ好みの問題で、技術的な部分とかそういうのではなく本当に好みの問題で。でも好みではないからと言って前から二列目で失礼をするつもりはなく聴いた事の無い「鼻ねじ」という演目にも興味があったんですが、いやぁ凄かった。マクラの控え目なトーンの段階からキッチリ客席の把握をなされた上での師匠ネタの散らし方や重ね方のその細かい事。多分、高座から見ると私ら他所者の夫婦は違って見えたんでしょうがそういう温度差のある辺りには慎重にみっしりと畳み掛けられてきて逃げようがありません(笑)。何気なに眼が合うんですよ? そう感じさせるのも凄い技術じゃぁないですか。そうやって会場の空気を整えてからの雪崩のような展開の凄さを支える表情の実に細かい変化と気配りで、あれは個人の好き嫌いを一旦置かされてしまいましたな… 抉る、とでも申しますか、笑いが繋がるようにもぅ抉る抉る。緩急だけでないコントロールの上手さといい一見力任せに見えつつもテンションを保たせるバランス感覚と緊張感は切れる事も無く最後までってのは。確かに好みではないんですよ。実際、コレを書いている今、観に行こうとは思わないんですよ。やっぱり台詞が潰れたり抉るのを重ねるのはクドく思ってしまったりと好みではないんですがしかしあの技術とここにいるお客さんを笑わせ倒すという気迫はそういう好き・嫌いを置いておいて素直に凄いなぁと感服するしかありませんって。
 
 中入り後のWonderful佳恵さんはちょっと可哀相だったかなぁ…
決して手を抜いていたワケではないんですが前半のテンションと密度の濃さもあってやりにくかったんではないかと思います。ただ、素人目には折角大らかな優しい雰囲気があるのにちょっとネタと見せ方が小さいのが気にはなりましたが… テンポはいいのにネタの大きさと見せ方があんまり合ってない感じがすると申しますか。空気を変える為にはもうちょっとあのテンポでいいんでもぅ少し大きく見せた方が良かったんではないかなぁ…
 
 そしてトリの「死神」。
これまで私が聴いたり読んできたものは円生師匠系とでも言いますか、「演者独自の呪文」等で笑わせておいての後半は怪談寄りで、ってのが殆どでしたが個人的には「何故、死神がわざわざあの男に呪文を授けるのか?」という点やら腑に落ちない箇所が色々ある噺でしたし妙に怪談調で警句めいたオチになってるトコロもあんまり好みのネタとは言い難かったんですがそもそも変わったネタのようで未読なんですが

落語『死神』の世界

落語『死神』の世界

 なんて研究書が出ているくらいで非常に特殊なネタらしいんですが、今回の染二師匠の死神はハッキリとした悪意の暇潰しでもて遊ぶというスタンスなんだけどそれでいてなんか憎めないという独特なキャラクターになっていたのが新鮮でしたね… っと思っていたらあのお囃子での後、というのにはとてもいい気持ちになりましたが …でも一八、結局死んでしまってんのに(笑)。なんか「地獄八景」に通じるような、死が扱われているネタなのに茶化すのではなくああいう形に丁寧にまとめられた… 笑わす為にふざける、という手法等色々あるんですけども… というのも込みで締めにふさわしいネタだと思いましたわ… 
 
 
 
 ホテルへの帰り道、真っ直ぐなのが嫌で串焼肉屋で妻と今日の落語会について飲み食いしつつわぁわぁ話してしまったのも、やはり緊張感と気迫と芸の綺麗さがあればこそ。恨み酒じゃぁござんせんが釈然としない気持ちになる帰り道になる事もあるのを思うと、私らにとっては本当に気持ちのいい会でしたわ…