御津町文化会館ハートフルホール『立川談春独演会』

会場のポスター。

 
 大垣駅で電車に乗る前に昼時って事もあったんで
ロッテリアミスドで何か買ってく?」
 と妻に聞いたら
「まぁ今時は現地の駅前に何かあるでしょ。少なくとも駅前には。」
 って言われて若干の不安は残りつつもまぁ何も無いってこたぁねぇだろう開場の一時間前くらいには到着する事だし… っと思いつつ電車に乗る事約二時間、辿り着いた御津町駅前には本当に何も無くて。会場までの約1キロの道程をトボトボと歩いてはみるものの食べ物屋なんてのは全く無くてやっとこさあるのはコンビニとスーパーの隣りにある出店のようなタコ焼き屋くらいでさて、っと辿り着いた会場のハートフルホールには人影も無く…
「どこかその辺りを歩いている地元の人を捕まえて食べ物屋のある場所を教えてもらおうか?(汗)」
「いやぁこの近辺で歩いて行ける場所にはまず無いぞこれは(汗)… 」
 って事で選択肢無くタコ焼きとお好み焼きを買って会場入り口にあったベンチで貪り食う事となったんですが、これで10月の今池ガスホールの時のようだったらシャレにならんぞ… でも、芸事ってのも水物だし最初っからネガティヴになってもねぇ… と思いつつ中に入りますがお客さんと思しき人はまばらで。途中会場をチェックしてたのか談春師匠がヒョイとロビーの様子見にとお顔を出され、また私服姿の師匠のいかにも休日のお父さんのようなややメタボっぽいお姿と相まって
「まぁ期待はしていないんだけどねぇ… 」
 とストーンげな気分でホールに入りますとこれが綺麗で席数400人のこじんまりとまとまったいい感じ。多目的であろう事からやや天井が高く落語という芸能に向いた音響かどうかは微妙だとは思うものの箱としては無理にデカくないのもあって一安心だがさてどこまで埋まるのやら、東京では切符売り切れが珍しくないという談春師匠でもTVでの露出等の地方の人間にとっての知名度はそんなに高いとは思えないしさっきも当日券を普通に売っていたしなぁ… と思ってる間に次々とお客さんが着席していき最終的にはほぼ満席。400人、ほぼ満席。私等のいる前の方は談春師匠の追っかけと思しき方々が多くそこから後ろの席は地元の人、って客質の雑多さも好ましく暖かい会場の空気、雰囲気も良く思えて… と幕が上がると金屏風に高座が映えるいい感じの舞台。で、開口一番は立川こはるさんかと思っていたら登場したのは
 
 ・開口一番 「子ほめ」立川春太
大須演芸場や『らくごくら』で何度か前座さんを観る機会があったものの眠くなるとか拙いとしか言い様が無いのは仕方ないにしても観ていて辛い、悲しくなるような酷い前座さん達も観ているだけに、そういう前座さんと比べるとまず高座の姿勢が汚らしくないのは好ましいし語り口ってのですか?が綺麗なんで安心して聴いていけるかなぁ… っと思ったのは最初だけで、個人的に前座さんにどうこう言うのもアレですが理が先に立ち、表に出過ぎた感じで「子ほめ」のようなお調子者&ウッカリ者をやられると凄く嫌ぁな噺に聴こえるんですよな。上下の切り方や視点の曖昧さからくる空間のあやふやさはこれから修練を重ねていかれれば身につく事だとは思うんですが愛嬌っか可愛げの薄さは、こはるさんが女性落語家ってのに逃げない本寸法から真っ向から望んでる気持ち良さと比べるとなまじテクニックの綺麗さがある分だけ厭らしい感じになるもんなんだなぁ… っと。米朝師匠等が言うところの「噺が腹に入る」ようになって落ち着いたらどうなるかは解りませんが、あまり感心はしませなんだな… まぁ前座さんのうちでどうこう言ってもしゃぁないですし化ける事もあるのが芸の世界。頑張って欲しいですね。
 
 ・「味噌蔵」立川談春
 そして登場なされた談春師匠、一目で前回観た時と違うのが解って。
マクラでの満員になった事のお礼と感謝の言葉も暖かく、運営の方をくすぐったりしながらも入るのは『味噌蔵』で、これが非常に丁寧で細やかな気の使い方をしている上に気持ちがあるんですよ。綺麗で間口は広く敷居も低いんだけども奥深い、と言えばいいのか。私の周囲には落語世界での丁稚っか小僧ったら定吉って決まり事を毎日香の事だと思ってた人もいるように落語に馴染みの薄い方いるんだけどそういう人達も全部引っ張っていくのは決して技術だけではなく腕に気持ちのあってこそで。落語を聴きに来たってよりは笑いに来たお客さんも多くてチョイとした部分でもウケるんだけどもそこで更に一押し、エグりまくろう、とはしない節度は保ちつつ… なんてのを見せられたらたまりませんわ。『味噌蔵』という笑いたっぷりの噺ですがこうも気落ち良く後味が暖かいものになるものだとは思ってもいませんでしたわ…
 
 って事で15分の中入り後は年末という事で
 
 ・「芝浜」立川談春
 この噺のポイントはやはり奥さんだと思うんですが、勝気な女性をあまり深くする事はせず… 三年間黙っていた事が耐え切れなくなって、って部分をそれ程しっかり演じる事はせず… 湯屋でご隠居さんからいい事も悪い事も全部無しにして、ってのに得心したんだけどもそれでも夫婦での喜びと明るさに満ちた賑やかなやりとりになった後でのサゲってのは気持ちのいいもんですな。っか、旦那がああいう気持ちのいい明るい人だからこそ惚れてるってのが伝わるってやり方もあるんだと。まぁ好みって点で言えば嫌いな人もいるんでしょうが酒を断って人が変わって真人間になったから良し、というこれまで私が聴いていて好みではなかった、だからこそ私が嫌いな噺だとも言える「芝浜」がいい面も悪い面もあってそれらをひっくるめての人って部分、夫婦としての支え合い・持たれ合いという形にしてみせた今回の談春師匠の「芝浜」は師匠の好みでもないのかもしれなくても私は好きですね… 寒い夜明け前の暗い情景からの最後の暖かく明るい夫婦水入らずなんていいじゃぁないですか。グッと持っていた酒を飲んだって夢になる訳がないのは解ってるんだけど「また夢になるといけねぇ」と明るく楽しく笑顔で言う事で今の心の内に明るさも幸せな気持ちも満ち満ちている、それを見る女房の姿もまた… ってなった今回の「芝浜」は、そういう演じ方だったからこそグッときたしホロっとしましたよ、私は。ヒネクレ者かもしれませんが所謂名人的な技巧の泣かせる為の人情噺の「芝浜」よりも、こっちの方が落語として素敵だと思いましたよ。
 
 
 
談春さんは初めての場所とか緊張感がある方がいいのかなぁ… 」
 と妻が言ってましたが、興行主側からのテーマ性の無い独演会というだけでは確かにモチベーションも持ち難いのかもしれませんよな。マクラで師匠が言ってましたが、この企画はこれで三回目なれど一回目が立川志の輔師匠、二回目が春風亭昇太師匠、そして今回の談春師匠、っと落語も好きなだけでなく町民の方に楽しんでもらう事も忘れない配慮を持った方がやっているからこそ、って部分もあったんではないかと。で、そういう気持ちと初めてな上に集客もどれくらいになるのか解らないって場所での落語という事に満席、で、客席の人達の「楽しまさせてもらおう」という暖かい雰囲気もあって今日のような独演会になったんではないかと。
 振り返るに10月の今池ガスホールの時ん時はスタッフもグズグズのダラダラなら客質も酷かったですしなぁ… ま、たまたまあん時はそういう時だった、ってのなのかもしれませんが、少なくとも名古屋での談春師匠、運営が変わるなり企画立てが出来るなりしない以上はあんまり観たいとは思えませんな。あくまでも名古屋での、ですが… って事で来年1月の今池ガスホールはパスしますが、機会があればまた談春師匠の高座は観たいと思いましたよ。確かに今日の高座、言い間違いや噛む部分もありましたが、そんなのはどうだっていいんですよ。そんなのがどうでもいいくらいに気持ちがホント暖かく浮き上がる気持ちになったんですもの。いやぁライブってこういう事もあるから止められないですよね。いやぁ今日は楽しかった!!