『真夜中の弥次さん喜多さん (2005)』

 
 世間的な宮藤官九郎の評価の高さは知ってはいるものの、どうも個人的には理に落ち過ぎた印象を受けると言うか… 才能のある人なのはよく解るんだけど、『ピンポン(2002)』以外の『池袋ウエストゲートパーク』も『木更津キャッツアイ』も『タイガー&ドラゴン』も駄目だし、『GO (2001)』『69 sixty nine (2004)』にしてもどうにもどうにもノリきれないでいて。頭がいい人の作品ってのも決して嫌いではなくむしろ好きな方なのだが、これは相性のモノかもしれんなぁ… っと思っていたのでこの監督作品、気にはなっていたものの敬遠をしておりましてな。今日、妻がTSUTAYAの旧作半額だか何だかで借りてきてもさして興味は無かったんですが、観始めたらナンかもぅ頭ぁ、飛ばされましたな。
 しりあがり寿の原作のうち『真夜中の弥次さん喜多さん』だけは読んではいたんですよ。言ってはナンだけど、いつものしりあがり寿の作品じゃぁないですか。私には男同士って事の必然性もあんまり感じられなかったし、ラストにしてもまぁ… ってのもあったんでしょうが、本作はまぁその原作から逸脱してますわな。純愛とか、その事自体はどうでも良くて、それら全部ひっくるめた上での「生」っての、答えとか結果じゃなくて今ここにある「生」ってのを堂々と、まさに文字通り「ブッ飛んで」っての確信的に、事情とか都合じゃなくて、ってのをやらちゃぁなぁ… っと。
 コメディっぽい演出でギャグも多いんだけどコレはコメディじゃないよなぁ… と言って、タイトルから『真夜中のカウボーイ(1969)』だ、喜多さんがドラッグ漬けでバイクのタンクに星条旗が描いてあったりってデティールだけで『イージーーライダー(1969)』だ、ナドナドとの比較を持ち出してもナンセンスなんですよね。だって一応江戸ってしてる背景と一緒で、それらは全部ひっくるめて前時代的なイメージでのものであって、ディティールや使い方に思想性やメタファーを見出そうとしたって意味無いんですもん。エクスカリバー伝説ネタだって原典は承知の上での『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル (1975)』げなのと同様で、弥次喜多の物語にしろそれ自体をいちいち原典と照らし合わせてああだこうだと言ってもしょうがないんですよな。
 で、
そんな物語りに対する役者のキャスティングが本当に絶妙。本当に上手い中村七之助の喜多さんに対しての弥次さん役に長瀬君、ってのはちょっと危険っか目も当てられないモノになっていても不思議じゃないのに演技指導の上手さもあるんでしょうけど使いドコロとそのハメ込み方が上手いから安心して観てられるんですよな… その他にも演技力って点では疑問な人達が本作では実に上手く生きている、ってのをやられてはねぇ…
 個人的には恋愛という行為、感情を進行に使う以上はもちっと湿度のある場面もあった方が… って気はしなくもありません。特に奥さんの米研ぎのシーンでブチ撒けた米が水浸しでも濡れてもいないってのが一番残念だったんですが、これはまぁ個人の趣味ですか。あまりそういう湿度は好きじゃないのかなぁ… って思わなくもないんですが、そういう好みはとりあえず置いておいて楽しんだ作品、でしたな… ギャグ映画、コメディ映画として観たら多分、つまんないし長いと思います。また映画の題名やらで内容を想像すると、これまた期待外れ&長いと思うのやもしれませんが… まぁそういう見方をする人って小説とか芝居とか映画以外のモノを、色々なモノを観たり体感したりしてないんじゃぁないんでしょうか。いやまぁコレは映画ですよ、ええ、映画でしか出来ない事をやっていますけど、だからと言ってそこで表現されるものが全て映画か?ったら違うでしょ? そういう点では舞台向きのテーマだったのかもしれないかなぁ… とは思うんですが、でもコレは映画でなきゃ出来ませんって。今回、久々にTV画面で観た事がちょっと残念な、映画館で観ておいた方が良かったような気がした作品、でしたな… 松尾スズキの『恋の門(2004)』が実写の映像での映画でなければならない必然性が作品的にあまり無かったのと比べると、コレは観てなかった事をちょっと後悔しておりますわ。
 
 欲を言えば、
もうちょっと撮影期間と予算とCG等の技術的人材が欲しかったですよ。コレでもほぼ宮藤官九郎が映画でやりたい事、映画だから出来る事っては再現、表現出来ているんでしょうが、その精度ってはもっと上げられた筈なんですよな。合成部分の継ぎ目とか予算があればもっと綺麗に消せれた筈だし、衣装や小道具でももっといい物が揃えられたりした事や、ロケ部分でも、とかね。作品としてよく出来ているだけに、だからこそハリウッド映画と比べるとその精度の部分でちょっと残念なんですよな。
 
 でも、どうしよう… なんか本作、DVD欲しくなってきた(笑)。