『Besharam (2013)』

DVDジャケ。

 
首都デリーで表向きには自動車整備工のBabli(Ranbir Kapoor)は裏では名の知られた凄腕高級車泥棒。両親を知らず私設孤児院で育った彼は同じ孤児院育ちのT2(Amitosh Nagpal)とのコンビで暗躍。稼ぎの大半は今も男手一人で多くの子供達の面倒を看ている院長に(出所は偽って)渡しており、T2とは質素な共同生活をしていた。
 
ある夜、院長の代理として結婚式へと出席したBabliだったが、そこで出会った美女Tara(Pallavi Sharda)に一目惚れ。何とかお近づきになろうと彼女のオフィスに参上してみるも、快活なBabliの真っ向正直でベタベタなノリに「恥知らず!(Besharam)」と罵られる有様で。
 
しかし、たまたま盗み売り飛ばしてしまったんだ車が実はTaraの物であるのを知ってしまったBabliは彼女に取り戻すのを約束、二人で売却先の地へ向かうが車は既に地元の悪辣な頭目Bheem(Javed Jaffrey)に売却されていた。地元では必要とあらば警官でさえ手にかけるBheem一党から何とか車を盗み返し、意気揚々とデリーへの帰り道の途中、パンクをした為タイヤ交換をと開けたトランクには大きなボストンバッグ。開けてみるとそこには大量の現金が詰まっていた…

 

 
私がインド映画界で今、一番の期待をし新作を楽しみにしている俳優がRanbir Kapoor。所謂二世俳優の特にこれという才能も無いボンボンが少なくないインド映画界にあって演技と言うよりも表現力という点では現時点ではトップだと思う、ってのはまぁ私の贔屓目ですけども、しかし多くのインド映画俳優が何処かでこれ迄観客が観てきた作品の、それもヒット作のキャラクターと重ねる”地”を遺しているのに対して、彼は2007年のデビューから年に1、2作というペースで出演しているのですが本人役を除けば全て違うんですよ… おそらく作品毎に体重の増減もしているんじゃぁないかなぁ… 小手先のデティールの変化、ではなくハッキリと別。しかも踊れる。ただ製作者側がキチンと作品を作り込み作品の”世界”、テーマ、シーンの意味や意図を把握している場合でないと、いくら現場で埋めようとも歴然とパフォーマンスに差が出てしまうというもので… ”地”で売ってる人ならばある程度はお約束や型に嵌め込むなりして流すなり纏めるトコロが彼はそうは出来ないってのが彼の難点でしょうか。逆にハマると凄いんですけどねぇ… って思いつつ、本国インドではFlop扱いの本作も期待してのオーダーでしたが… うん、確かに大作を期待してると肩透かしになりますけど、ひとときの娯楽としての映画ってので小さなお話として観るなら楽しい作品でしたし、表現者としてのランビール君の1つの極地が点在してるだけに本作を単純に失敗作と言うのもどうかと、っかこれをFlopとするインド人はなんて贅沢なんだと思いましたよ。
 
メイキングによれば脚本に9ヶ月かけたそうですが、そのワリにトーンがバラついてるのが、ねぇ… 特にクライマックスがドタバタになるんだったらプロローグとか明らかにやり過ぎの部分になりますし。と言うか、ツンが強過ぎるヒロインがデレる過程が甘い上に終盤は存在が必要ではないってのはなぁ… とか、本編の瑕疵はいくらでも転がってるんですけど、それよりもランビール君の演技、アクション、ダンスの素晴らしさがあるから観れてしまうと申しますか…
 

 
自分の身体への感覚とかも凄い上に踊れるんで一見それなりの画面に見えて実はスカスカなファーストソングん時には不安になったんですが、あくまでその時点では上っ面だけでしかないからスカスカだったのがこの2曲目の『Lut Gaye (Tere Mohalle)』で解っちゃうと、ねぇ… キチンと其処迄の流れと意味がある場面でのこの繊細さったら! 映画的には『Rockstar』や『Barfi!』の方がよく出来ていて演者の力量も解り易いのは重々承知しているのですが、そして基本はドタバタのコメディですが結構複雑な心象のBabliという役*1に存在感とリアリティを十分に与えた上で更に前2作では無かったダンスシーンでの表現の充実ぶりはFlop作品だからと切り捨てる気にはどうしてもなれないし観れて良かったと思えたんですよね… 情況とシーンとのハマり方がちょっと尋常じゃないんで妻なぞは「ちょっと怖い」と言っていましたが、主演作でありながらも自分よりもシーンに徹する彼氏の素晴らしさを最後まで堪能出来た作品だったなぁ、と思うですよ。
 
強烈に人にオススメをする気にはなれませんし多分日本公開も無いんでしょう。ぶっちゃけ前半のシモネタの多さはあんまり好みじゃぁないんですが、そういう欠点や不満を差し置いても… と、私個人的にはとっても楽しかった作品でしたよ、っとぉ。
 

 
『Besharam (2013)』
Label: Reliance Big Home Video
Theatrical Release dates: 2 October 2013
Runtime: 142 min
No of Disks: 1
Subtitles: English / Arabic
Audio: Dolby Digtal 5.1 Surround, Dolby Digtal 2.0
Video Format: NTSC

Special Feature
・Making of the Movie (22min)
 

 
さてDVDソフトとしましては… 本編の画質・音質については全く問題ありません。
デジタル撮影ならではのシャープさと色合いの鮮明さは夜のシーンでも特に潰れるという事もなく非常に綺麗なものですし… まぁ綺麗過ぎてCGエフェクトの粗いトコとかが目立ってしまうのは御愛嬌ですが… 音声に関しても実にクリアーです。ただ、ヒットしなかったっかFlop扱いの作品なだけに映像特典がメイキングだけ、ってのはあるだけマシって思わなきゃならんのでしょうかねぇ… ええ、EDロールでの「Chal Hand Uthake Nachche」、
 

 
出来ればフル画面のノークレジット版を収録してくれても良かったんじゃぁないかなぁ… 現時点ではこのメーカー公式のを観るしか無いんですよ。んで音楽の権利持ってるT-Series社のってピッチがおかしいか色合いが変なのしか無いし… っと、いうのはさておき、商品としては問題無いと思いますよ〜っとぉ。
 

*1:一見考え無しのチャラ男なんだけども、どちらかと言えば自己防御の為の偽装でもあり。両親を知らずに育った事での愛情の渇望と先ず叱ったが故に教育等のチャンスが得られなかった事への失望と渇望と妬みに嫉妬があるのを自覚しているけれど、あの院長の孤児院(もっと酷い境遇で生きていかねばならない子供もいるのを知っている)だった幸運への感謝も恩義も常にある。車泥棒にしても孤児院存続の為の金稼ぎとして、だから稼ぎそのものへの執着は薄くて。車を盗む事それ自体は好きでも良い事でもないと解っているけれど、しかし社会や裕福層への復讐の爽快さも感じていなくもなく… というのが台詞ではなく演技で解ってくる。役の分析や背景についてはもっと深くしていると思うが必要以上には見せないでいる匙加減もいいと思ったんですよねぇ…