『Billu - The Barber (2009)』

インド版DVDジャケ。

 
 とあるインドの田舎。祖父の代からの理髪店の主Billu(Irrfan Khan)は向かいに流行の美容院が出来てからというもの子供の学資にも苦労をしているものの、祖父の代からの理髪店である誇りを持って日々の仕事に真摯に、そして寡黙に臨む男であり、夫であり、父親であった。
 
 そんなある日の事、インド映画界のスーパースターSahir Khan(Shahrukh Khan)が村で映画の撮影をする事になる。何でもSahirはこの村の出身らしく、話題作りと故郷への凱旋も兼ねて、のものらしかったのだが、何時からか誰ともなく
「BilluはSahirと親友だった。」
 という噂が立って村人の羨望と期待を一身に背負う事になるBilluだが彼自身はその事について否定もしないかわりに肯定もしないでいた。
 
 BilluとSahirは確かに子供の頃、親友と言っていい間柄ではあったのだが二人が別れて既に何十年。かたや代々続く理髪店の店主に過ぎない自分の事を、今や国内のみならず世界にもその名を知られる映画界のスーパースターとなったSahirが覚えているものなのだろうか? 確かに、懐かしいし会いたい。だが、仮に彼が覚えていたとしてもこれ程までに立場も生活も違うようになってしまった現在、自分が彼に会いに行ったとしてもそれがはたして純粋な友情の再会だととってもらえれるのだろうか? 彼はそうとってもらえるにしても、彼の家族やスタッフらはどう思うのだろう? それに、自分が彼に会いたいと思うのは単なる自分勝手なエゴでしかなく彼にとっては迷惑なのではないのか… と一人悩むBilluを周囲の人達は知らず、勝手に彼を讃え、子供の学校の校長までが
「Sahirを学校に呼んで一席喋らせたら息子の授業料はタダにしてやる。出来るだろ? なんせ親友なんだから」
 と強要してくる始末で。
 
 そしてSahirがとうとう村にやって来た…

 
 私はインド映画でもアクションかコメディ、でなければホラーしか買わないようにしているんですけども本作については粗筋を読む限りある種の現代の寓話っぽくもなく… 製作がシャールクの奥さんのガウリーンさんが社長のRed Chillies Entertainment社で、となると… ってのに加えてやはり
 

 
 等のミュージカルシーンの綺麗さもあって購入をしましての。まぁもちっと詳しく調べると本作、同じインド国内のマラーヤム語映画『Kadha Parayumbol (2007)』のリメイクらしいんですけども流石にそちらは未見の状態での視聴、でしたが… ん〜…
 
 オチが、なぁ…
 
【ここからネタバレなので白文字化】
 
 BilluとSahirは本当に親友である、というのはあの学校での講演で皆に示されて、その後でコッソリと観に来ていたBilluの家にSahirがコッソリとお忍びで来て、ってので終わってくれたのならば私はこの映画、結構気に入ってたと思うんですけども問題っか個人的に駄目なのがその後。何時の間にか村人らがやって来ていたのはまだいいにしても、手前ぇらがBilluの言う事も聞かずに勝手に持ち上げて勝手に騙されただの嘘吐きだのと怒り狂ってBilluの理髪店を破壊し、Billuとその家族を哂い蔑み罵倒していた事に対してちゃんと謝罪をしないままに
「やっぱりBilluとSaHirは友達だったんだ! Billu偉い! Billu凄い!」
 とはしゃいで騒ぐ様でのエンディングでは私は絶対に納得出来ないんですけども。
改心の情をキチンと見せてもいないのにそれは無いでしょうに… っか私なら絶対に許せないんですけども。
 
 ただ、その村人らの無責任な態度や狂騒といったものこそが本作で描きたかった事なのやもしれません。
でなければインド映画にしては比較的短い137分という尺の中、スーパースターとしてのSahirの場面を対比ではなく描く必要ってのはあんまり無いですしね… でも、本作を「シャールクの為の映画」として観ると、そうやって言わんとした事は私にはちょっと切ないですね… ある種の諦念と断絶の上でのものですから。
  
【ネタバレ区間終了。】
 
 映像そのものは奇を衒わないオーソドックスなものながら役者の方々の立った演技の御蔭で非常に安心して観ていられましたな。特にイルファン・カーン、彼の演技でBilluという登場人物が「お話におけるキャラクター」としてよりも人物としての存在感やリアリティを持っているのでより感情移入して観られましたがだからこそ余計にあのオチでは釈然としないっか納得できないっか… 無論、それはイルファン・カーンが役者として素晴らしいという事でもあるんですけども。
 
 
 
 
 以下はこのDVDについての情報なので興味のある方だけ
 

 
・『Billu - The Barber (2009)』- Region All
 
 Studio: Eros
 Theatrical Release Date: February 13‚ 2009
 Run Time: 137 minutes
 
 Aspect Ratio: 16:9 Anamorphic Widescreen
 Sound Coding: Dolby Digital 5.1 / Stereo
 Subtitle: English
 
 Special Features
 ・Making of the Film
 ・Making of the Songs
  - Marjaani
  - Hit Hit
  - Khudaya Khair
 ・Deleted Scenes

 

 
 紙製のスリムなケースがなかなかにお洒落でしたがディスクの方もナカナカで。
画質と音質は良好だと思います。ボリウッドの映画製作環境が、大手だけかもしれませんがフィルムからデジタルへと移行してきているからでしょうか。ただ個人的にはYash Raj Films社のと比べると発色とシャープさにやや欠ける?って気もしますがそれこそたった3、4年前程度の作品のとは比べ物にならないレベルだと思います。
 
 特典もナカナカで特に「Making of the Songs」、それぞれに違う楽曲と世界観なのをプロデューサー、監督、作曲家、だけでなく振付師やゲスト出演者にまでちゃんとコメントを取ってるのは嬉しかったですな… ただ欲を言うならば! 『Mauin Honn Na』や『Om Shanti Om』のような監督による音声解説とかもあれば最高なんですが… にしたって定価で$10しないであの本編、品質、そして特典と揃っておりますし何よりも本編、現代性はあまりありませんが多少屈折した寓話としては考えるべき点の多い作品ではないんでしょうか? 多分、エンターテイメントとして、もっとお話し的にも出来たろうしハッピーエンドとして無理からな力技をする事も出来た筈ですが、あえてそうしなかったというその点こそがこの映画の意義なんだろうなぁ… って私には思えてしゃぁないんで強いてオススメはしませんが、現在の急激な変化を続けるインドの空気を示す「時代」の作品としても興味のある方ならばこの品質のDVDですし購入なされても損はしないと思いますよ〜 っとぉ。