『Chocolate (2008)』

 
 少年の頃から傷に惹かれるヤクザのマサシ(阿部寛)はタイで知らぬ間に現地のタイ人マフィアのシマに入り込んでしまう。その時に出会ったタイのマフィアの女に惚れてしまい二人は関係を持つようになるも蜜月は長く続く事なくマフィアのボスの温情と女に諭された事でヒサシは日本に帰る。女もそれまでの生活に嫌気もさしていたのもあってボスの元を離れる事にしたが彼女には新しい命が、ヒサシとの間に育まれた愛の証が宿っていた。
 そして月日は過ぎ…
生まれた娘Zenは自閉症気味だったものの優れた聴覚と動態視力を有しており、それは家の外のタイ式ボクシングを見様見真似で収得したりTVやビデオでの格闘シーンを再現出来る程だった。
 
 マサシに奪われた事で執着を続けるボスの脅威はありつつも母子は小さいながらも幸せに暮らしていたが、母が癌にかかっている事が分かる。Zenの運動能力を生かした見世物で稼ぐくらいでは全くお金が足りず途方に暮れていたが、ひょんな事から見つけた借用書… かつて母がギャングに身を置いていた頃に取り立てをしていた… を見付け、それを頼りに借金を取り立てに行く事にするのだが…

 
 女性が主人公の格闘物、というのはファンタジーですわな。
ファンタジーという言い方が難なら妄想、でもいい。技術は往々にしてウェイト差に凌駕されるのがリアルならば映画としてのリアリティをどう持たせるかが出来の分かれ目になるじゃぁないのかと思うんですよ… まぁこれはどんなジャンルでも言える事か。でも、個人的には女性の格闘物ってのはあんまり燃えないっか好みではないと言うか… まだ『チャーリーズ・エンジェルス』シリーズのようにハナから承知の上で飛ばしまくるのやミラ可愛いよミラな『バイオハザード』シリーズなぞは兎も角として、古くは志保美悦子さんやらジョイ・ウォンにしても何となぁく乗れない私でございまして。
 しかしそれを『Ong-bak (『マッハ!!!!!!!!』(2003))』、『Tom yum goong (『トム・ヤム・クン 』(2005))』のPruchya Pinkeaw監督作品、って事になるとこれまでの好き・嫌いというのはとりあえず置いておこうと思えたのはリアリティの為にリアルを通すという無茶なやり口を知っているからで。ただ、仏の化身っか寡黙なハヌマーンとも言えるトニー・ジャーと比べると、撮影までに4年かけてトレーニングをさせたとは言っても新人の女の子に一体どのようなギミックでリアリティを与えるのか? その上でどこまで出来るのか? っという不安も無くもなかったんですが…
 
 ん〜…
 
 一番の難点は撮影監督とカメラマンがこれまでの作品の人とは違う事で、画面構成が非常に単調なのとカット転換が多いワリに見せ方をよく解ってはいなさげ、ってのもさる事ながら『Ong-bak』『Tom yum goong』にあった観ていて思わず引き込まれるような映像… 仏像や自然や風景とか、ね… が特に無かった、ってのが、ね…
 バストアップが多くその構図も単調なんでまるでVシネみたい。
とは言え、多分今の香港映画でも出来ないアクションをしているのは凄いと思うんだけども、主人公のZen以外に役でキャラが立ってるのが敵役のジャージ男1人、ではもちっと盛り上がりに欠けるんですよね… って、まぁ贅沢なんですけども、この監督ならではだと思ってた映像の詩情的部分がスッパリ無いのは個人的にはちょっとガッカリしましてな。
 体重の軽い女性が大の男を薙ぎ倒すファンタジーとしてのアイディアはZenを異能・異形として描き且つ格闘シーンのネタといい充分オッケーではありますしタイ映画ならではの血まみれユーモアも悪かないんですよ。しかしこの監督のジャッキー・チェンの映画っかジャッキー映画好きがまんま出てると今、香港映画でもこれだけのアクション映画を、しかも女の子でってのは無理目っぽいのは分かるんだけども
「でもジャッキーは10年、20年前にやってたもんなぁ… 」
 っと思ってしまうのも事実で。
あ、コレは別に「昔は良かった」ネタじゃぁなくて、ジャッキーのアイディアをまんまやられると凄い!とは思うものの既視感はどうしたってあるし、そうなると映画としてのカット割りの多い本作の方がどうしても軽く見えてしまう… ジャッキーなら見せ場は大抵ワンカットだったもんなぁ… とか思ってしまうんですわ。
 格闘シーン自体はごっつええです。
フォームが綺麗なのに加えての伸びとスピード、女性ならではの体躯の柔らかさと生かしたものな反面、膝や肘も実際に当てるわ、敵を止めるのに膝や脛を蹴ってるエグさはこの監督ならではでしょう。でも、それが画面でもっと栄える筈なのにそうなってない勿体無さがずっと続くんですよね… 劇場のスクリーンで観たくなる程の映像になってない、ってのは映画としてはちょっと程度が、って私は思ってしまいましたな。
 
 ストーリーの整理の仕方もやや甘め、題名となっているチョコレートが特に生かされる場面も無く、阿部寛演じるマサシも彼氏の日本刀での殺陣のもっさりさ加減といいあんまり必要性が無いしでちょっと今までの作品の事を思うと… って事で、レンタルでの視聴が一番ではないかと思いますよ。
 自分でも厳しいかなぁ?っとここまで書いたのを読み返して思わなくもないんですけども、前2作が映画としての快楽があったのを思うと本作はそれが無い上に繰り返しになるますがやはり脇と詰めが甘かったんではないかなぁ… っと。
 
 それよりも観終えて気になったのはこの映画における【タイらしさ】の欠如、ですね。
風景には殆どタイらしい寺院や自然は映りませんし、僧侶も仏像も象も出てきません。タイ語、英語、日本語の入り乱れる作品ではあるんですが『Tom Yum Goon』ではそこに文化の断絶と差別があったけれども本作はそうではないから必然性が無いし。風俗的にオカマ部隊がタイらしいか?ったらまぁ違うワケで。主人公Zenが戦う理由も母の為ではありますがクライマックスのマフィア以外は元はそのマフィアから金を借りていた人達なんで確かに相手は皆乱暴ではあるものの明確な敵とも言い難いんですよね。挨拶の合掌くらいで後は特にタイである必然性も無いこの映画、海外マーケットも考えての事なのかもしれませんが… NRIを対象にしたボりウッド映画から【インドらしさ】が抜けて私としてはあまり興味をそそるものではなくなっていってるように、「可憐な少女が(ジャッキーやトニー・ジャーのように)戦う」という以外にはコレという監督の思い入れや情熱が感じれない本作はクーデターの0影響もあったのやもしれませんが… どこか絵空事として、感情移入が登場人物のみならず製作者にも出来ない作品ってのは個人的にはあんまり燃えませんでしたわ…
 
 
 
 以下はこのDVDについての情報なので興味のある人だけ

 
・『Chocolate (2008)』(PAL) - Region 3
 
 Studio: Baa-Ram-Ewo
 Theatrical Release Date: 6 February 2008 (Thai)
 DVD Release Date: 23 April 2008
 Run Time: 110 min
 
 Aspect Ratio: Widescreen - 16:9
 Available Subtitles: Thai
 Available Audio Tracks: Dolby Digital 5.1, 2.0 - Thai
 
 Special Featuers:
 ・Director's Commentary
・making (13:47)
 ・Photo Gallery (24)
 ・Trailer (3:04)

 

 
 紙製のアウターケースに入ってはいますがケース本体はシンプルなものです。個人的にはあんまり仕掛けも無いこういうアウターケースは好みではないんですが…
 
 メニューは全部タイ語、字幕もタイ語のみなので覚悟。
画質、音質は全く問題ありません。数年前まではちょっと画質的に難有りの作品が散見してましたが非常に綺麗でシャープな映像とクリアーな音質で楽しめます。
 
 特典等は私はタイ語が全く読めないんで適当につけたものですが…
「Director's Commentary」はインタビュアー役が監督に問うという形式の音声解説です。タイ語がサッパリ解らない私には何の有難味もありませんが、きっと撮影秘話満載なんでしょう。
「making」は多分、地元タイでの公開前TV特番の物かと思われ。短いながらも主要登場人物のインタビューもあり、阿部さんも日本語で喋っています。ここの映像・音質は本編よりグッと落ちます。
「Photo Gallery」は静止画をリモコンで進めるもの。本編には見られなかったスチルもありますがカット分ですかね? 撮影風景は無い、一昔前ならロビーカードっぽい物となってますがもうちょっと数は欲しかったか。
「Trailer」は劇場版予告編。こうして見ると予告編ではいかにもブルース・リーのカンフーを披露しそうですが、実際にはジャッキー&トニー・ジャー*1なんであんまりいい出来ではないような気もしなくもありませんが、欧米では外部の専門プロダクションによる予告編製作が主流になってDVDに予告編が収録されてない場合が少なくないので単純に私としては嬉しかったですけども。
 
 DVDソフトとしては画質・音質には満足なれどチョイと物足りないかなぁ?っという気はします。その物足りなさを上回るくらいに本編が楽しかったのならば別ですが、是非にとオススメするだけのソフトではないかな… ってな事を書いた後で実は『Chocolate (Special Edition)』もリリースされたようですが特典がちょっと増えて*2お値段も$5高い、ってのなんでまぁパスかなっと。やっぱり私的には本編が面白くなきゃぁなぁ… っとな。
 

*1:劇中、Zenが『Ong-Bak』、『Tom Yum Goon』を夢中で見入るシーンがあったり、多分PC版『Tom Yum Goon』と思しきゲームをやってたりするのはご愛嬌、ですかね?

*2:Character Introduction EPK、Deleted Scene、Chocolate’s Action Scene、Jeeja’s Skill等が増えた模様。ひょっとして二枚組? のようだが、他の仕様は同じ。