『Italian Stallion (1976)』

 
 ニューヨークに住むKittyとStudの若いカップルは己が性欲を持て余していた。年上の女性との逢瀬を経ても衰えないStudの性欲に嫉妬するKittyとの交情も次第にエスカレートしてマリファナパーティーの乱交となり、最後はみんなで手ぇ繋いで輪になって踊ってメデタシメデタシ。
 
 という本作、元々は『The Party at Kitty and Stud's (1970)』という題名で公開されていたポルノ映画で、粗製濫造された同時代の他の同類の作品と共に時の流れのままに人々の記憶からもフィルムそのものも消え去る筈、だったのですが主役のStudを演じた俳優が後に『ロッキー (1976)』で大ヒットを飛ばしたシルベスター・スタローン*1で、しかも彼の銀幕デビュー第一作というブツを興行的に見逃す筈も無く、『ロッキー』の公開から2ヵ月後にロッキー・バルボアのキャッチ・フレーズである「イタリアの種馬(Italian Stallion)」に改題、それに合わせて何となく『ロッキー』のテーマソングに似ていなくもない曲に乗せたOPとEDを新たにくっ付け、しかも冒頭にわざわざ何処ぞの女性による前口上まで入れて公開した、という興行的には実に正しく且つ徹底しているんですけど実にエグイ品物であります。従って本編中、StudをItalian Stallionと呼んだり称したりするシーンは一切ありませんから、もぅPorno映画としての実用価値はどうでも良く、あくまでも見世物としての公開だった事が窺われますな。
 
 本作は既にあまり画質の良くないVHSとそれを元にしたDVDがリリースされているのは知ってはいたんですが、ぶっちゃけスタローン以外ネタになりそうもない昔のポルノ映画に$20以上払うのも馬鹿馬鹿しいんでスルーしていたんですが… 皮肉な事に昨年末に公開された『Rocky Balboa (2006)』のヒットに加え、今年のGrindhouse再評価ブームの後押しもあって新たに完全デジタルリマスターされた安価なDVDソフトとしてリリースされる事を知ったもんで購入してみたんですが… いやぁ…
 
 映画ってよりはイメージビデオですな。スタローンのイメージPV集。
 
『Deep Throat (1972)』と『Behind the Grenn Door (1972)』のようにソのモノを大写しで見せつけるHardcoerが見世物商売である一方で社会への対抗、反抗、挑戦だった「時代」の作品ではあるんですが、そういう政治性とか思想性ってのは乱交メンバーん中に黒人女性がいる事で僅かに感じられるのですが、しかし白人女性とのnecking程度で男優との絡みも無いしで特に本作がこの内容で現在リリースされるだけの中身がある映画じゃないんですよね。っか、筋らしい筋ねぇし。そもそもコレ、日本とのレィティングの違いで「毛」や「身」や「具」が映ってはいても大写しでもなく、まして結合シーンなぞも無いPornoですから今時観るとひたすらに乳と尻と毛が出てるだけなんすよね。それ以外は必要の無い、目的の無いのはいっそスッキリしてますが、本当にそれだけなんでここにファッション以上の時代も思想も無いんですよね。そういう点では『死霊の盆踊り (1965)』等のヌーディキューティ映画やバーレスク映画に近いような気がします。
 Underground以外でも本作以前からHardcoreはありまして、実際スタローン以前からJohn HolmesはゴリゴリのHardcore作品に出演していたのを思うと冒頭の解説でスタローンを彼と並び賞するのは嫌味以外の何物でもなく、出演してた彼氏が後に大ヒットを飛ばす事が無ければ恋人Kitty役のHenrietta Holm嬢をはじめ出演者の大半が本作以外にこれという出演作品が現在では見当たらないのと同様に当時の有象無象のPorno作品の1つとして現在にまで残る事は無かったかと思うくらいに中身が無いんですよ… 一応舞台が真冬のニューヨークで終盤にマリファナパーティーという点で(当時の)都会の映画という見世物の要素もあったのかもしれませんが、それ以外は特にストーリーらしいものも無い、本当にただただダラダラと裸が出てるだけの映画でラス・メイヤー監督の諸作ような「おっぱい大好き!」って個性も情熱も情念も特に無いし、本作より後に製作された『Thriller - A Cruel Picture (1974)』等のPorno作品と比べてもお話があまりにもなさ過ぎる作品なんで映画としては嫌になるくらい退屈で辛かったですな。
 
 しかし、そんな本作は実にスタローンの映画なんですよ。
公開当時24歳の彼氏ではありますが、今とちっとも変わってないの。Wikipediaで知ったのですが彼氏は出産時に医師のミスにより顔面の左側(特に唇、顎、舌)の神経に傷がつき麻痺を起こしたことが原因で言語障害を発症したのだそうですが、それを抜きにしても運動神経がイマイチなトコや演技のパターン、カメラへの意識の向け方や喋り方とか今とホントに変わらない。一頃は比較されてたアーノルド・シュワルツェネッガーが『Hercules in New York (『SF超人ヘラクレス』(1970))』から経験を重ねる事でかなり細かい部分で演技力が上がっているのは一目瞭然なのと比べるとスタローンは加齢と収入が増えた事で立派な身体になったのを除いた役者としての技術面はちっとも変わってないんですよ。だから『Rocky Balboa (2006)』が素直に観客に受け入れられたのやもしれないのを思うと、ここまで来ると上手い下手じゃなくて個性ですよなぁ… でもまぁ、Playboy誌のインタビューにおいてスタローンが明かしたトコロによるとこの映画の出演料はたった$250だったんだそうで、今のレートに比べれば多少はマシとは言え本当に映画業界への機会と食う為に逼迫した末の切実な選択だったのでしょうがしかし画面にいるのは今と変わらぬスタローン… 他の出演者が当時のこういうジャンルの映画らしい陰気さや陰があるのと比べ、今もやってる事が同じのスタローン… そんな作品が今もこうやって商品になるってのも個性故、なのかもしれませんが損なのやもしれませんが。
 
 
 
 以下はこのDVDについての情報なので興味のある方だけ
 

 
・『The Italian Stallion (Grindhouse Sexploitation Collection) (1976)』 - All Regions
 
 Studio: Cinema Epoch
 Release Date: July 6, 1976
 DVD Release Date: October 9, 2007
 Run Time: 68 minutes
 
 Aspect Ratio: Full Screen
 Available Audio Tracks: English - Dolby Digital
 
 Extras: Trailer (3:07)

 

 
 DVDソフトとしましては、
画質、音質共に制作年代と低予算のPornoである事を思えばかなり綺麗な方ではないでしょうか? 多分、UK版のフィルムをマスターにしたと思しき本品、若干音声にキレが欲しいトコですがまぁ殆ど女性のニンフォげなモノローグだけなんであっても無くてもいいですし。画質も色合いとかデティールのシャープさがもうちょっと… って思わなくもないんですが、こればっかりは元のフィルムの大きさと保存状態に因りますからこんなもんでも上等じゃぁないんでしょうか? 特に酷いノイズも見当たりませんし。
 
 本編の中身の無さと特典がほぼこの映画とスタローンの解説だけの予告編しか無いDVDソフトとしての中身の薄さもまぁ素材がそれしか無いから仕方無いかと。その分、多少お求めやすい価格になってるかとは思うので話のタネとして時間とお金の余った物好きの方かスタローン好きの方にはオススメはしますが、興味本位での購入はいくらAmazon.comで購入出来るくらいに大したブツでも無いけど一応日本の法律上では税関没収で破棄って可能性もある品物な上に本当にツマラナイ作品なんでオススメはしませんなぁ… あまりにも中身が無いし見所もありませんしねぇ…
 

*1:Sylvester Stalloneは「シルベスタ・スタローン」ってのの方が個人的には馴染んでるんですが… ま、今はこういう表記が主流ならばね、っと。