『Zu - Warriors From The Magic Mountain (『蜀山奇傅・天空の剣』(1983))』

香港版DVDジャケ。

 
5世紀の中国。様々な国が覇権を目指して戦乱が続き人々は疲弊していたがその裏では魔人や妖怪が跋扈していた。ひょんな事から廃寺に迷い込みそこに巣食う妖怪に襲われた青年・童童(ユン・ピョウ)だったが颯爽と現れた剣士・丁引(アダム・チェン)に救われる。
 この地を荒らす魔人を倒す為に暁如(ダミアン・ラウ)とその弟子・ 一眞(マン・ホイ)に協力すべく導師より言われて来た丁引の凄さに童童は弟子にしてくれと頼むもにべもなく断られてしまうが成り行きで魔人の本拠地へと一緒に行く事となるのだが…

 
「これまで生きてきた時間」の方が「これから生きてゆく時間」よりは長くなりますと、「ひょっとすると記憶のままにしておいた方がいい作品」ってのに手を出す時は凄く悩むもので、本作もレンタルビデオで視聴した筈でシーン単体ではよく覚えてはいるんですが
「で、結局どういうストーリーだったっけ?」
 ってのがまるで思い出せない映画という微妙な作品でしてな。
 本作があったからこそワイヤーワークは再注目され、『 北京オペラブルース(1986)』やら『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー(1987)』のような詩情的世界を描く事も出来た一方で『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』シリーズや『スウォーズマン』等のように活劇に新たな力を注ぐ事も出来、それが『グリーンディスティニー』や『MATRIX』等に繋がってゆく、って映画の歴史や流れも解ってはいるんですが、
「じゃぁソレを今、観る必要があるのか?」
 って部分で、さて… と悩んではいたんですが、近所のレンタル店には置いていないし妻は未見、ならば… って事で他の香港映画と一緒に購入して観たんですけども…
 
 ん〜…
 
 一本のお話として観るにはあまりにも辛い、エピソードの分量のバランスが滅茶苦茶で説明になってないわ、よく考えなくても繋がらないシーンや唐突に現れる重要人物と設定だらけだわ、っというもので、大陸的って言うんですかね? 見せ場と見せ場を繋ぐ為のお話って感じで、一応「魔人復活の阻止の為に蜀山の仙人が持つ剣を得て最後は魔人を倒してメデタシメデタシ」ってストーリーなんですが、この作品の場合オプチカル合成やワイヤーワーク等による特撮映像を観るってのの方にウェイトを置かれた見世物映画なんであんまりストーリーの事を書いてもしょうがないんですが、これじゃぁ覚えてなくても仕方無いなぁ… ってな出来でございまして。
 
 では映像としてはどうか? となると、確かに今のワイヤーワークでやってる事の原型はほぼここで揃ってると思うし凄い!と思う場面もあるんですがそれも中盤まで、明らかに終盤はネタ切れになっちゃっていて、なまじ前半で華麗で凄いネタの披露がなされているだけに余計に盛り上がらんのです。オプチカル処理は同時代の日本の特撮と比べても一段落ちるっか前時代的なんですが、それがクライマックスで『ドラゴンボールZ』におけるフュージョンみたいなのをやるトコロで大々的に使われてもまぁ気持ちは冷めまさぁな。またミニチュアは当時からショボく思っていたものがそれから20年近く経過した今観直してみて新たな味わいが出てくるというものでもなし。衣装やセット等のデザイン、美術もなぁ… っと。
 
 ですんで、
「出演者のファンとしてのアイテム」
 ってのでなければ
「映画史的に観ておいた方が自分にはいいと思う」
 って自発的にそう思う未見の人には観て損は無い作品だとは思うんですけれど、そうではない人達にまであえて今オススメする、今観る必要がある作品だとも、今観ても良い作品だともとても思えない、知識として昔そういう作品が昔あった、ってのでもいいかと思うんですよね… 2007年の現在では。
 
 確かにこの映画によって活劇でのワイヤーワークは世界に知られましたし古装片ってジャンルの復権もなりましたが、色々とあたったネット資料によると本作は『龍門客桟 (『残酷ドラゴン・血斗!竜門の宿』(1967))』にて使われていたワイヤーワーク技術の復活をツイ・ハークが試みたもの、らしいんですよな。そういう歴史的部分を除くとバイオレンス描写等、今ではとても表現出来ない事やストーリーがあるとか出演者のアクションなりが本作が飛びぬけて素晴らしい!ってのでも無いんでは…
 ジャッキー・チェンの映画はキートンチャップリン同様に未見の人にも現在観てみるだけの価値なり値打ちがあると思うんですよ。作品毎の見せ場とテーマがハッキリしていて、そのクオリティがとても高い上にキャラクターという個性まであるんですから。ブルース・リーハロルド・ロイドにも通じるキャラクターの個性がある。それらと比べると… って思うんですけどね。見世物って娯楽の映画としては撮影と特殊効果等の技術がメインの本作に限っては昔の香港映画の「味」を除いて尚残る物がさしてあるとは思えないんですけどね… でも、そういう娯楽映画ってのはもっとあってもいいと思うし、そういう映画はそういう映画なりの評価と消費をされてゆく方が健全だと思うんですよね、私は。勿論、時代を超える作品はそれはそれとしてあってもらいたいものですが。
 
 ま、
今「古装片でワイヤーワーク」を未見の人に今オススメをするのならば私は間違いなく

 でしょうなぁ… 東方不敗をはじめとするキャラクターの個性、ジェット・リーらのワイヤー抜きの動きの美しさ、ケレンと華麗なワイヤーワーク、ドラマチックなスコア、そして現代にも通じる苦いストーリー… 映画史的なお勉強、教養としてだけでなく娯楽としても未見の人が今も観る値打ちはある筈、って作品は本作ではなく他にもあると思うんですけどね、現在ならば。
 
 
 
 …ってのはさておき、以下はこのDVDについての情報なので興味のある方だけ

 
 ・『Zu - Warriors From The Magic Mountain (1983)』 - Region All
 
 Studio: Universe Laser (HK)
 Theatrical Release Date: 5 February 1983
 DVD Release Date:
 Run Time: 92 minutes
 
 Aspect Ratio: Widescreen - 2.35:1
 Available Audio Tracks: Mandarin, Cantonese
  - Dolby Digital 5.1, Stereo Surround
 
 Available Subtitles: Japanese, English,
 Bahasa(Indonesia, Malaysia), Simplified Chinese,
 Traditional Chinese, Vietnamese, Thai, Korean
 
 Special Features:
 ・Star Files (5)
 ・Trailer (3:03)
 ・More Attraction (1)

 

 
 画質はマスターのフイルムの状態のせいか、色合いや明るさが変わったりノイズが出たりもしますが概ね鑑賞に耐えうるものになっているのではないでしょうか?
 音質は… もちっと。アテレコテープが無いのかやや鮮明さが欲しい気がしなくもありません。一応5.1Surroundとの表記はあるんですが、それにしてはもひとつかなぁ… っと。
 
 日本語字幕はとりあえずストーリーが掴めるくらいの意味が翻訳されていると思います。やや日本語表現としてはおかしい箇所やもちっと台詞がある筈だろぅココ!って部分もありますが、通しで言えば全然マシだと思いますよ。
 
 特典はやや少な目。
出演者らの簡単な略歴を1Pに中文・英文表記した「Star Files」、劇場版予告編の「Trailer」は撮影風景の様子も収められているのがポイントか。んで、同社の発売中の商品の中から兵士と長髭仙人の二役で出演したサモ・ハン・キンポーも売りの『龍的心 (1985)』の予告編のみ収録。あぁ主人公はユン・ピョウなのに…(笑)
 
 …って事で、DVDソフトとしては「可でもなく、不可でもなく」ってトコでしょうか。
日本版の値段の事を考えると特典に大きな差異も無いようですし、コレクションとしての購入ならば画質・音質的にも特に問題も無いんでコレでもいいんではないんでしょうかね?