『桜蘭高校ホスト部 (2006)』雑記。

 
 アニマックスで2回目の放送となりましたな。
本放送が木曜日の夜8時半、リピートはちょっとバラけているので【番組評】を要チェック!って事で。
 
 まぁアニマックスが視聴出来る人に限られますが、ホント、アニメでしか出来ない事ってのをこういう形で、しかもそれが目的ではなくあくまでもマンガ原作のアニメをやるための手法としてやってのけた素晴らしく、そして楽しい作品なんで未見の人は是非に… っとオススメ。
 
 
 
 以下は私の個人的雑感なんでお暇な方だけ
 
 初めてTVアニメを全話DVDで揃えてしまう事にした本作、コメディと言っても所謂少女マンガの逆ハーレム系という作品を? っと言われても不思議ではないこれまでの購入履歴ではありますが、何故にこうまで肩入れする気になったかと言えば
「本作はアニメでなければ出来ない先鋭且つ緻密な演出でエンターテイメントをしてみせた稀有な作品」
 だと思ったから、なんですよね。
映像としてのアニメーションの凄さで言えば今まで色々な歴史があって私が購入してきた作品ってのもどちらかと言えば映像そのもの・動く絵としてのアニメーションとしての評価しか出来ていなかったんですよね。そりゃぁ色々な演出もあるのは解ってはいるんですが、得てしてそういう作品は実験的過ぎたりハナから購買層を狙い絞り込みしまくってのマニア的過ぎるきらいがあって、それはそれで嫌いではないものの一方で実写では普通にやっている事がアニメで出来たからどうなの?って事はずっと引っ掛かっていたんですよ。最近の押井作品のようにデティールの密度を上げまくる事は1つの演出、世界観の構築ではあるものの、それがアニメーションとしてのものではなく実写により寄る事ってのはどうなのよ?とか。
 だから、アニメーションならではってのを私は長い事「実写では実現不可能な動き」って仮定していたんですわ。素材やらデティールは二の次で、アニメである意味ってのはそういうものではないかな、っと。
 
 ところが。
 
 本作の第1話を観た時、頭ぶん殴られたと言うか目から鱗落ちまくりっか、凄い衝撃的だったんですよ。これまでマンガ原作のアニメの場合、フレーミングそのものは固定だからマンガのコマとコマを埋める事にかなりの苦労をして… 予算や納期の問題で全部は出来ないけれどもそのエピソードでの見せ場ではコマの狭間を動きや音で埋める、って事でやって… きたと思うんですが、本作はその逆、まさにフレーミングが固定だからとあえてコマ単位でやる事でマンガを見ている時の感覚に近いものにしているんですね。コマとコマの間を埋めようとはしない代わりにコマの中での動きにこだわる。当然カット数は凄い事になるんだけど緩急をつける事でガチャつかない、ただカットが多いだけの作品ではなくしているんですよな。
 その上で動き・絵なんですけども、デフォルメや線の強弱だけでなく大胆な省略と対を成す緻密な描き込みによる情況・心理描写、比喩や隠喩といった映像演出は隙が無く、緩急・メリハリがついた動きのダイナミックさが埋めない事と相まってスピード・テンポ感、そして独特の雰囲気が凄い事になってるんですよ。
 
 更に音響演出が本当に素晴らしくて、音の音量・位置と空間設定・効果の匙加減が絶妙だわ、同じスコアでも繋ぎやらを変える事で画面と音声のタイミングにドンピシャに合わせているわ、スコアや音声、SEも同じ1つの場面内であってもその情況、状態や進行によっては強弱やエコーをつけたりつけなかったりして… そうやって選りすぐった音で密度を上げたり下げたりする事すらも演出で、そういう演出が出来る人がいるからこそ、声優さん達の演技も実に繊細。キャラのトーンに縛られていない、地の部分もうっすらとアリにしておいても素人臭く無い。
 
「アニメーションでしか出来ない事、ってのはこういう形もあったのか」
 っと。
絵を描き、音をつけなければ何も出来ないアニメにあって、要・不要をキッチリと見分けた上で積み上げ作り上げていくからこそ出来る作品。だからこそアニメでなければ出来ない作品。
 乱暴に言ってしまえばこれまで多くは紙芝居の延長だったマンガ原作アニメを、マンガ・コマという枠組みを残しつつもアニメでしか出来ない事をやりまくりながらも、この作品の場合はそれがウリ・メインではなく、あくまでも原作のカラッとした「大人」の良さを活かして万人向けのエンターテイメントにしてみせた、ってのがもぅねぇ… 堪らんのですよ。
 
 毎週放送という形態だった為、必ずしも全話の出来が素晴らしいワケではありません。やり過ぎの話もあればちょっと…って時もあるんですが、しかしそれでも全話揃えようという気になったのは、企画当初から全26話と決まっていたからこそ出来たシリーズ構成の妙がまた凄くて、例えば7話であえて原作と変えてあった鏡夜の台詞が17話で使われていたり、1話のホスト部のパーソナルカラーが後のエピソードでもさりげなく生きているわ、そして色々やってきたシリーズの最後がキチンと有機的に繋がり積み重なっていった上で… ってなるゆく素晴らしさったら。
 エピソード単位での好きなアニメならいくらでもありますし、シリーズ全話揃えようかなぁ… っと思ったアニメだっていくつかはありましたが、結局購入していなかったのは、どうしたって普段メインで購入している映画等のソフトに比べるとTVアニメは仕事が落ちるんですよね、当たり前の話なんですが。毎週やれるからこそ出来る事があるのは解るのですが、どうしても続けていく事での「抜き」が出てしまう。その上にアニメのDVDは商売の特殊さ故か高いじゃぁないですか… 収録話数が3とか4で6千円ぐらいしますし。だからこれまで買わなかったんですけど、イマイチ・惜しいと思う回があっても必ず見入ってしまう場面があるんですな。そして1話完結方式なのにちゃんと全部が綺麗に繋がっているからこそのダイナミズムがあるんですよな。
 
 このアニメは美しい。
 
 絵として美しいだけでなく、媚に逃げない、デティール・小手先に走らない、スタッフの自己満足に溺れない、ギャグやお約束で誤魔化さない、水増ししない。って姿勢が全うされている様が美しい。
 
 そして、何よりも楽しいんですよね… っと、まぁ自分でもこんなに入れ込んだTVシリーズって無いんじゃぁないんでしょうか。それくらいこの『桜蘭高校ホスト部』という作品は好きなんですよね。勿論、原作のマンガはマンガとして凄く面白いし、作者さんの匙加減がとても心地良くてそれはそれで大好きですよ。予断ですが、良くも悪くもアニメ化される事で歪む事が少なくないのに、キッチリとマンガはマンガとしてやってきた事の上での展開になってる様なんか生半な事では出来ない事だと思いますしね… そういう点でも実に稀有な作品だと思うんです、って閑話休題
 
 こんな小難しい事をいちいち書くのはかえって逆効果なのかもしれませんが、しかしね… 『のだめ』とか、他のマンガ原作アニメと見比べると、もぅ駄目、物足りないんですよ、「抜き」に苛付いてくるんですよ。カッタルくて、ダサくて、一回観ればもぅそれで充分ってのですら殆ど無く… しかも『ホスト部』のやった方法論は「アニメでしか出来ない事」の1つでしか無いってのに… ってね。