『ラガーン (Lagaan (2001))』

 

 
 時は1893年、イギリス植民地時代のインド。農村チャンパネールでは雨季になってもまだ雨が降らない。この厳しい天候の中、この地方の警備・統治を任されていたイギリス軍将校 ラッセル大尉(ポール・ブラックソーン)は前年、同じように雨が少ない窮状を訴えた藩主の要望を受け入れて地税(Lagaan)を半分にした分、今年は2倍支払いを要求。藩主もイギリスには逆らえないで止む無く要求を呑む事 にするが堪らないのは村人で、既にギリギリの生活をしていて最悪家を売らねばとても払えない窮状を訴えるべく再度藩主にお願いをしに出かけると、ちょうど藩主がいたイギリス軍 の駐屯地ではクリケットの試合が行われていた。
 自分達が窮状に喘いでいる一方で呑気な遊びに興じている様に、村の若者ブバン(アーミル・カーン)は「子供の石打ち遊びと同じだ」
 と評したのを聞いたラッセル大尉は
クリケットの試合に勝ったら、今後3年間はチャンパネール村だけでなくこの地方一帯は無税にしてよう。しかし、もし負けたら3倍の地税を課す」
 と賭けを提案。
「子供の遊び、なんだろう?」
 っと挑発する大尉。ブバンに限らず村人達は試合どころか、クリケットがどういうものかも知らなければ道具も無い。しかし、このままでは2倍の地税を納めなければならず、それは村の破綻を意味している。どうせ破綻をするのならば、まだ3年間無税のチャンスを得るべくブバンは賭けを了承。当然、チャンパネール村のみならずこの地方の村全体の人までも彼に反対をするのだが、ラッセル大尉に度重なる無礼をはたらかれていた藩主もこの賭けでイギリスを負かせと聞く耳も持たず。
 ルールも知らない。道具も無い。経験も無く… その情況に村人は皆絶望をしていたが、ブバンだけは違った。父親譲りの真っ正直さと真摯さ、そして熱意に人々は突き動かされ…

 
 2001年度年間興行収入第3位、ってよりも第74回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、って事もあってリリースされた日本版、なんでしょうな… ってのはさておいて、
 
 もぅ、お腹一杯。
 
 実は観るまでは何となく辛気臭そうなお話… それこそインド版『アパッチ野球軍』のクリケット版だったらどうしようかと思ってたんですがいやはや全然そんな事は無く、4時間近い大作だから、ってのよりも、オープンセットの広大さ、エキストラの数の多さ、ミュージカルシーンの素朴ではあるけれども華やかさ、出演者それぞれの演技の濃さ、一つ一つがしっかりしているのを支える脚本、それらをコチラに退屈もさせないかわりに飽きさせないように展開するテンポの良さ、そしてカラッとした時にユーモア混じりの語り口、って映画の楽しみが詰まった一本でございました。
 かつてハリウッドで製作された『ベンハー』『スパルタカス』『十戒』ナドナドの歴史大作を観た時の事を観終えて思い出しましたが、あそこまで宗教&説教臭くも無いし、基本的に主人公のブバンがスーパーマンではなく意志と闘志の人という等身大さ、彼と共にクリケット戦に参加する村人らも一芸はあるんだけど歳や気性や身体といったネックもあるのを巧みに配置して展開していき、結果として彼らが成しえた事は歴史には残らなかったというエンディングも含めて、啓蒙と言うよりも庶民の為の娯楽大作に仕上がっているのは大きな違いではないかと思います。
 
 そりゃまぁこれだけデカイとどうしてもお話が優先する分、もうちょっとそれぞれの人物達へのエピソードは欲しかった気がしなくもありませんが、あくまでこの映画は各々の人物のビルディングロマンスではなく意志と闘志を持った者達が事に挑む事への賛歌である以上、それを望むのは筋違いでしょうし、これ以上の尺になるとそれがボケてしまうでしょうしね… だから勝利したのは全ての村人達であり、彼らに雨が降り注ぐラストは神からの等しい祝福で… と思えば、ね。

  • 不可触賎民(ハリジャン)。
  • 首を横に傾ける事で「はい」を現すジェスチャーになる。
  • 目上の人の足に触れる事が敬意の作法。

 そして一つの村の中でヒンドゥーだけでなくイスラムやらシーク教、とか様々なインドならではの御約束は事前に覚えておくとより映画に入り易くなるんじゃぁないかと思いますが、その一方でラストの1時間近いクリケットのルールについては必ずしも知っておく必要は無いかと思います。
 映画中でもごくごく初歩的なルール解説やらが入りますが、その程度でいいんだという判断に基づいての事だと思います。そう、試合を観戦している村人らはよく解らないもののプレーを観て一喜一憂しているように、観客にも試合そのものではなくプレーの様に観てもらえればいい、ってのだと思ったんですけども。
 無論、ちゃんと知っていればもっと楽しめる事ウケアイだと思いますよ〜
 
 
 
 …って事で、
 以下はDVDソフトとしての情報なので興味のある人だけ


・『ラガーン (2001)』
 
 原題:LAGAAN - ONCE UPON A TIME IN INDIA -
 製作国:インド
 製作年:2001
 字幕翻訳:松岡 環
 
 販売元: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
 発売日: 2003/3/26
 時間: 224 minutes
 
 音声仕様: Dolby Digital 5.1 サラウンド
 音声: ヒンディー語
 字幕: 日本語、英語
 画面サイズ:
 2.35:1 - スクィーズシネスコサイズ
 
 FEATURES
 ・未公開シーン
 ・フィルモグラフィ
 ・オリジナル劇場予告編集

 
 画質も音質も時折マスターが元のノイズが入りますが綺麗なもんだと思います。ビックリする程美麗だとは申しませんが、やや色褪せ気味の色合いもこの映画の場合は味、って言えなくも無いですし、夜のシーンでも潰れてないし、発音もちゃんと聴き取れるんですから綺麗な方じゃぁないんでしょうか。
 
 字幕に関してはヒンディ語は解らないんで英語部分と訳文の日本語としての… ってのでの判断になりますが、良い方ではないのでしょうか。英語もヒンディ語も日本語の字幕が表示されてしまう事で失われる味があるのは『Tom Yum Goong (2005)』等、こういう映画ではこれはもぅしょうがない事なんで置いておくとして、非常に読み易い表現と文量にまとめているのは好感を持ちました。時々、ちょっと纏め過ぎな気もしないワケではありませんでしたが、ここは読む側との兼ね合いもあるんで総合的に良い字幕翻訳ではないかと。
 
 特典に関しては…
この映画、元々インド公開版は4時間だったのですが、国際版は224分ってカットした版で、現在流通しているのDVDは224分のUS版が元になっているんですね。
  で、
 収録されている予告編はその国際版のものですし、削除されたシーンにしてもインド国内版からのものなのか、国際版になる為のカットなのかが観て判然としないのが個人的にはイマイチですかね。
 
 あと、収録時間っか容積の都合があるんでソングチャプターが無いのは仕方ないにしてもせめて封入のリーフレットかチャプター画面に「♪」なり音符マーク1つ入れるくらいはしていて欲しかったですね…
 
 ただ日本人による日本語字幕で観られるDVDってのが殆ど無い現状で、こういう大作が観られるってのは素直に有難かったですし、悪くないソフトだと思いましたよ。