『うつうつひでお日記』
- 作者: 吾妻ひでお
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/07/06
- メディア: コミック
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『失踪日記』は私も好きで、だからこそ本作を購入したんですが… 世間的には作中のエピソードがウケたようですが、ホームレス体験にしろガテン系にしろ、私も似たような事をやってたのでさして珍しくはなかったんですよ。アル中病煉関連にしても、満更知らない世界でもないし… って事でお話として格別に面白いとは思わなかったんですよね。唐沢俊一氏も指摘していましたが帰る場所がちゃんとある環境での逃避、ですからあのエピソードよりも悲惨な、救いの無い、陰惨な事件や体験や事例やらを綴った本や映画なんていくらでもありますし。しかし『失踪日記』が私が好きなのは、作者が耽的っか溺的にならず自身と体験についてちゃんと距離をとって端正な絵で表現した、その姿勢なんですよ。自己韜晦や露悪趣味に見せかけた自己憐憫でもなく、と言って卑下でもなければ「感動させてやろう」「泣かせてやろう」といったあざとさや、奇麗事にして「読者を最後に安心させるお話」としてまとめてやろうという思い上がりでもないし、言い訳や責任転換でもないし、愚痴や呪詛でもない。そうではなく、あった事を吾妻ひでおのマンガとして、吾妻ひでおの作品として出した、しかもちゃんとした絵と画で、って矜持と言うか業と言うか覚悟と言うか姿勢が私は好きだったんですよ。
で、
本作は日記形式になった事で、一見特に大きなエピソードは無い、読書やTVの感想や原稿描きの様子だけを綴った楽屋マンガのように見えて『失踪日記』の続編として期待をすると肩透かしをくらう人もいるかもしれませんが、これはそういう作品じゃぁねぇんですよ。これは続編じゃぁないんです… 時系列的には続編的かもしれませんが、作品としては違うんです… 一見大きなエピソードは無いように見えて実はコマに何気なにさりげなく描かれている物事、そのさりげなさ加減の裏と言うかベースになっているもの、そしてそれをさりげないように描いて作品にした作者、って点で実はかなりシンドイ作品だと思いますし、だからこそ私は本作の方が好きです(←サド(笑))。 悲惨さをウリにした自己顕示、虚構のネタにして綴る方がまだ楽ではなかったかと。自身への挑戦の記録であり、リハビリの記録でもあり、告解の記録でもある、そんな真摯っか誠実な作品だと思いましたよ。
ただ、その本編の合間に現在のインタビューを挿入した構成はちょっと疑問。後で出てくるエピソードについて先に作者の言葉で語られてしまうのはなぁ… 編集者としては解説、事前の説明ってのをしておかないと読み違えるかもしれないし… って配慮のつもりかもしれませんが、インタビューの質問もややとっ散らかってるし質的にも「?」に思えて私には興醒めでしたんで、これから読まれる方にはまずガーッと本編を読み終えてからインタビューを読む事をオススメしますよ〜