『March of the Penguins (2005)』

 
 以前、■[映画] 『皇帝ペンギン』はアカデミー賞に非ず。という記事を書いたのですが、やはり気になってUS版DVDを買ってみたんですよ、拷問映画の『Hostle (2006)』のついでに。
 んで、先日届いたブツを観てみたんですけど… 
 
 いやぁ別物ですわ、コレ。
 
 まず画質が違う。
パッと観、フランス版と違ってやや発色に落ちる印象を受けたUS版でしたがよく観れば、コンピューターによる彩色と色彩強調をしていたフランス版からより自然の素材に戻した、って感じと言えばいいでしょうか。その分、空気感とかがより出ていますし、処理によってザラついた印象のあった画面もフィルムの質感の活きたスッキリした印象になってます。
 
 次に画面が違う。
冒頭からフランス版には無い風景のショット等のカットが追加挿入されていますが、それが最初だけではありません。また細かい事なのですがOPでのスタッフ名の表示の仕方は一緒なのですがエフェクト効果を小さく、表示自体も早めにしているので画面の邪魔になりません。これって結構重要かも。
 EDロールもフランス版と違い、右側にメイキングっか撮影の様子などを流す事でこの皇帝ペンギンの生態を追った人々の苦労が偲ばれる… って仕様になってます。
 
 さらに音楽が違う。
フランス版のBGMを残した場面もありますが、かなりの場面でAlex WurmanによるUS版オリジナルのオーケストラのスコアに差し替えられている場面も結構あります。決して五月蝿いものではなく、いい意味で耳に残らない、オケゆえに柔らかく感情に沿ってくれてなお自己主張し過ぎないいいスコアになってまして、これが非常に心地良いです。
 フランス版が好きな人には悪いんですけど、私にはどうもあのシンセのBGMは画面の迫力に負けているように思えてダメなんですよ…
 
 そしてナレーションが違う。
オリジナルの擬人化した親子モノローグは全面廃止、かわりにナショナル ジオグラフィックス協力&監修による生物学的なナレーション、解説になっています。さながら神様のようなモーガン・フリーマンの語り口は『Blue Planet (1999)』のデビッド・アッテンボローのような頻度、テンションと違って非常に穏やかで感情的にならずに、淡々と語りかけてくれるもので、私的にはこの変更が一番好印象を持ったですよ。
 
 これならば、アカデミー賞のドキュメンタリー部門を受賞してもおかしかないです。ペンギンの擬人化やお話の映画にしてしまった事等に不満をもった人が望んでいたバージョンはまさにコレでしょうて。
 残念ながら日本版DVDはフランス版をベースにしてますがこのバージョンを出してはくれんでしょうかのぅ… ホント、ただの音声の変更だけではないんですし… 別物として、このオスカー受賞作品をリリースしてくれないものでしょうかねぇ…
 
 って事で、
 以下はこのDVDについての情報なので興味のある人だけ
 

 
・『March of the Penguins (Widescreen Edition) (2005)』 - Region 1
 
Studio: Warner Home Video
Theatrical Release Date: June 24th, 2005 (limited)
DVD Release Date: November 29, 2005
Run Time: 80 minutes
 
Aspect Ratio: Widescreen - 1.85:1
Available Subtitles:English, French, Spanish
Available Audio Tracks: English, Spanish (Dolby Digital 5.1)
 
Special Features:
・OF MEN AND PENGUINS (54 min)
・National Geographics's Crittercam : EMPEROR PENGUINS (24 min)
・Classic Looney Tunes Cartoon "8 BALL BUNNY" (7 min)
Theatrical Trailer (2 min)

 

 画質、音質については問題無し。っか良好。
 特典もUS版独自のものになっていますが…
 
「OF MEN AND PENGUINS」は製作ドキュメンタリー、メイキングなんですがフランス版の「Documentaire Luc Jacquet "Antartic Printemps Express"」が監督の撮影苦労自慢大会だったのと比べ、素材は一緒でもニヤけた監督の語りのシーンは全部カット(笑)、細かいトコロでは撮影の合間にペンギンの隣りで煙草をふかすシーン等の撮影隊による環境破壊の様子等もカット、っと大幅な再編集を経て必要最低限のナレーションによる撮影側の人間と撮影されるペンギン達とが同等の扱いになったユーモラスなメイキングになっていて私は凄く好印象を持ちましたよ。っかフランス版は本当にカスで、
「あぁ結局このクソオヤジは自然にもペンギンにも何の思い入れも愛情も無いんだな… 」
 っと暗澹たる気分になりましたが、同じ素材でも編集でこうも違ったものになるかと改めて感心しましたもの。
 
 そしてナショナル ジオグラフィックス提供の皇帝ペンギンの生態研究のドキュメンタリー番組である「National Geographics's Crittercam : EMPEROR PENGUINS」はペンギンらへの、南極という自然への愛情に満ちたものになっていて楽しかったですよ。やや子供向け用にチャカチャカした演出部分はありますが、本編で足りない部分はこれでカバー出来るんじゃぁないんでしょうか。
 
 アメリカではワーナーのインディペンデント部門が上映、って事もあって(フランスではブエナ・ビスタ フランスが上映、DVDリリース)か、ルーニー・トゥーンズの短編アニメーション「Classic Looney Tunes Cartoon "8 BALL BUNNY"」を収録。ひょんなことから子供のペンギンと出会ったバックス・バニーが何とかその子を故郷の南極まで連れていってやろうとするのですが… といったもので、フルフレーム&あまり良いコンディションではない画質・音質ながらもオマケとしては充分なモノではないでしょうか。
 
 最後にアメリカ版劇場予告編も収録、っというこのDVD、先に本編についても書きましたが、『皇帝ペンギン(La Marche de l'Empereur)』を観て、残念だったり不満だったりした人にはこのUS版DVDこそが望まれた作品ではないかと。
 逆に『皇帝ペンギン(La Marche de l'Empereur)』という「擬人化による親と子」って映画が好きだった人には、生物ドキュメンタリー映画である本作『March of the Penguins』は合わないだろうと思いますが…
 
 しかし、オスカーを受賞したのはこのドキュメンタリー映画、ですから何とかリリースされて欲しいものです。私は、折角の時間と手間とをかけた記録をあんなチンケな人間レベルに矮小化したモノよりも、こうして真っ当なドキュメンタリー映画にした本作の方を断然支持しますよ! …って事で日本公式HPにこの記事をTB。