『霍元甲 Fearless (2005)』

 
 以前にも書きましたが、どんな都合や事情があったにせよオリジナル『霍元甲 Fearless』をカットし、日本の若者のバンドの曲に差し替えるなどの改竄、改悪をして『SPIRIT』なんてのにした日本の配給会社にはビタ一文も払いたくないので今日届いた香港版DVDで鑑賞しましたが… ん〜…
 
 「泣ける映画」宣伝してた馬鹿、斬首。
 士道不覚悟なら切腹だけど、こんなん斬首だ斬首。
 
 ファミ通No902号のインタビューにて

 
2003年、中国では23万人の若者が自殺してしまった。仏教徒の僕としては残念でたまらないよ。生命や人生とは何か理解しない和解うちに自殺してしまうなんて! 僕にできるのは、映画を通して反暴力をアピールすることだけ。暴力では問題解決にならないと思うし、他人の心を動かすの、感動やハートだけだからと思うから。

 

 と製作の動機を語っていたジェット・リー。そのキーワードとして「自強不息」… 自分に克つ… をあげていたのだが、劇中の霍元甲は列強に支配されてしまった政府への何ら批判も無いままにただ自己犠牲をしたからこそ尊い、としているとしか観れなかったし、それで動かされる人の心の行き着く先って去年の中国の反日デモ程度の歪んだ愛国心にしかならんのじゃぁなかろか?
 成る程、田中安野(中村獅童)は武士のように高潔な人ではあったかもしれないが、しかし、実行したのは中国人でも結局は原田眞人演じる日本人の差し金で霍元甲は毒殺されてしまって尚、「恨みを抱くでない」って言われてハイそうですか、日本人も外人さんともこれからは仲良くしましょう! と言える人なぞ劇中にいねぇじゃん。ホント、お調子者ばっかりで、幼少の頃からの親友とてそう言える人物とは見えないし。おまけに折角試合に勝ったんだから早く病院に連れて行けば助かったかもしれないのに取り囲んで大騒ぎしてる様の方がよっぽど怖いわけで、そんな図を観ると
「国の危機に己が命を捧げて誇りを取り戻して殉死した霍元甲
 って以外に観れますかいな。
それのどこが「自分に克つ」なんです。恨みを赦してやる、その先にあるのが「外敵排除」ってスローガンを言わせていた人の言う「自強不息」が「富国強兵」とダブってしゃぁないんですけど私…
 
 思えば『HERO』『LOVERS』もまた君子(施政者、統治者)には君子の事情があり、君子ならぬ人民があれこれと君子について思いを巡らしたり批判するのではなく、まず従うべきだという中国共産主義肯定プロパガンダ映画ではあったが、そんな作品のプロデューサー陣からすればこれでいいのかもしれませんが… それこそを良しとしたジェット・リーは、そりゃぁ政治や国家や民族に対してよく言えば現実的、悪く言えばシニカルなツイ・ハークと喧嘩別れもするわなぁ… っと思ったですよ。
 
 映画として観ても、どうもエピソードを端折ったようで随分と足りない印象を受けましたが駆け足になっていても余分、無駄なシーンが多過ぎます。往年のキレが無い動作、所作といい、どう見てもボクシングや西洋槍術の動きでなかったり、ワイヤーを多用する分どうしても動きが軽くなったり、1930年1910年*1という時代設定の日本武道ではあり得ない多彩な蹴り技、そしてスタントマンが見るから、もぅ一目で解るくらいに体格も背の高さも体つきも違うのでバレバレ、ってなのも含めて残念、ガッカリな映画でしたな… あ、でも初めてちゃんと聴いたジェイ・チョウ氏のテーマソングはカケラも中国語が解らない私にもヒップホップのテイストを取り入れつつも力強い曲で素敵だと思いましたよ。歌詞が解らないからアレですが、そんな私でもあの曲は本当に映画の締めとしてふさわしい余韻、響きをもった曲だと思いましたよ。歌詞のせいかギャラか使用料のせいか知りませんが、この曲を日本のバンドに差し替えた判断をしたやつぁ斬首ですよ斬首…
 
 
 
 以下は余談。
 
 私には、 
同じ憂国の映画であっても「自国の問題は問題としてそこにあるよ」という危機意識の分でも『Tom-Yam-Goon (2005)』の方が好ましく思えました。確かに『Tom-Yam-Goon』は本当の意味では解決しないんですよ。安直な希望は見せない。人間一人で出来る事の限界、挫折で終わるとも言えます。でも、だからこそ、他人事じゃぁないという真摯さを感じるんですよ、私は。安易に何もかも背負わせる事もせず、国としての誇りとかどうとか、それに殉じる美学とか、施政者の都合や理屈を押し付けないで、まず一個人に起こるかもしれないし既に起こっているかもしれない事、と訴えた姿勢の方が私には好ましかったですよ、と。
 

*1:06/05/04付コメント欄での指摘により訂正