『マインド・ゲーム (2004)』

 
 風呂上りに一杯飲みつつ特に何という気も無くチャンネルをかえていると、ザッピング途中のアニマックスにて、そんな一瞬でも眼を惹きつけた絵に思わず姿勢を正して観る事にして、結局そのまま最後まで観てしまったのが

マインド・ゲーム [DVD]

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 既に開始30分からだったんですけどね… 何でしょう、これは。
イメージの奔流する様の、何と伸びやかで自由な事か! 語るべきメッセージの力強さと明るさったら! 04年と言えば『千と千尋の神隠し』をはじめとした劇場用大作アニメ作品は色々あったものの、絵がツールとリアルに追われるあまりに作品という『世界』は閉塞し矮小化してしまった。語るべき『物語』までも汲々として台詞で語る事でどうにかこうにか。キャラはますます記号化し畸形化していき… っという業界全体の傾向の中で、アニメーション本来の「動く」という事であそこまで力強く、そして切なく、厳しく、そして優しい『物語』を示してみせたなんて!
 
 まぁ、手法として
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 との類似性は否定出来ないんですが、世界は広く呑気で未来は未知の希望の国だった60年代だからこその物語自体が今観れば稚拙で呑気で退屈だったのと比べると、デジタルで個の距離も空間も狭くなり、未来は今日の延長線上の姿でしかないという冷淡さを抱かねばならぬ現代に産まれたこの物語、大胆に戦後からの時間を軸にしていながらもパラレルにしてみせて可能性という広がりを示した凄さって点では本家越えをしてますよ! それも本家は架空の御伽噺にしてしか出来なかった事を、現在の大阪を舞台のスタートとした寓話にしてあそこまでやっちまうわ、それでいてミニマムじゃぁないなんて、これは生半な才ではありません。
 
 観終えた妻が
「でも、シンドイよね… 」
 っと言ったように、絶対の正解も人類皆幸福の道も無い、って前提があって、いいもんも悪いもんも、好きなもんも嫌いなもんも、カッコイイもんもブサイクなもんも、自慢出来るもんも恥ずかしくて死にたくなるもんも、いろんなもんが常に、どんな選択をしたって抱いていて、そこからは逃れられないしずっとずっと選択し続けていかねばならない厳しさも切なさもあるんだけど…
 だけど
生きているからこそ、自分が今、生きているからこそ得られたものがあり、得ているものがあり、得られるものがあるじゃない? それがどんなものであろうとも、生きているからこそ… って、こんなに素直に言われたらねぇ… 同じような危惧や情況の分析があるんだけど、少なくともここ数年の押井や庵野作品に対する私の中の鬱屈や苛立ちが全部フッ飛んだくらいに苦さも辛さも寂しさも悲しさも色々なネガティヴさも飲み込んだ上でここまで堂々とやっちまったんだもん。
 しかも、それらを絵や台詞ではなく動くアニメーションの画として観せてくれたんですもの。こんな作品、観た事ねぇよ!
 
 この映画には漫画の原作があるんだそうですが、私は正直言って観る気になれませぬ。
映画がフレームという枠を越えられないのに対して漫画におけるコマはそのフレームの集合体でもあり1個でもある、という凄さも、漫画ならではの間や味といった面白さもあるのは解っているし、多くの原作付き映画が原作を超えられなかった事も解ってはいるんですけど、少なくとも主人公の西君の日常という「枠」からの脱出のお話ならばいらんのですよ私は。この映画は、その他の登場人物だけでなく製作者も観ている者までもその「枠」からはみ出させるパッションの塊で、そんな映画でありながらも説教ではなく笑わせ手に汗握らせしんみりさせるって事を100分にギッチギッチに詰め込みまくった、そんな作品だからこそ好きなんですよ。
 
 ただまぁ、猥雑さに満ちた作品ですから好き嫌いも出てくるでしょうし苦手な人もいるでしょうが、そもそも命、生きていくって事は下世話だらけで猥雑なもんじゃぁないんでしょうかと。綺麗事の夢、幻だけではない、現実に立っていながらも高く、遠く、遠く、実に刺激的でスリリングでお茶目で素敵な映画だと私は思いましたよ… って事で私の中で既にDVD購入決定ッ!