『Born To Fight (『7人のマッハ!!!!!!!』(2004))』

 
 タイからDVDが到着したので早速観賞。字幕無しな上に私も妻もタイ語はサッパリ解らんのだが観ればだいたい解るのが映画、なんだが… まぁ詳しくは日本版公式HPを見てもらうとして… って、このHPも含めて観終えた今思うのは
「タイの憂国映画を正月に、しかも馬鹿アクション映画として配給、宣伝している映画会社ってクソだな」
 って事でしょうか。
戦うのは7人だけじゃぁないし… って事以前に、兎に角殺伐とした映画で、ウッカリ年少のお子様を連れて行こうものならトラウマになりかねない程にバンバン人が殺されていきますが、監督が多分ここまでやらねばならない程に今、タイ国内では貧富の差と急速な都市部のみの整理による地方との経済や情報等の格差の拡大と、自国にとっての大切な歴史や伝統や文化の軽視が主に都市層に進行しているんじゃぁないのか? っと思いましてのぅ…
 
 この監督の前作『Ong-Bak (『マッハ!!!!!!!!』(2003))』を観た時もボンヤリとは感じていた事ですが、別の監督の『Garuda (2004)』が、神獣の名を冠した怪物が首都バンコクを破壊しまくるという内容でしてね。当初はそれが怪獣映画のフォーマットによるものだろうと思っていたのですが、この作品を観るとどうもそれだけではないとしか思えないんですよね… それこそ現状に対しての憂いや憤りや苛立ちや危機感が「仏罰、天罰」という形で現わされたかのように見えたんですが… だからこそ、『Born To Fight』でもタイの人々にとって原始的、原現風景的な情況やシュチュエーションが展開されているし、人間にとって一番解り易い『痛み』を主に据えたアクションを生身でワイヤーやCGを使わないで行う事が必要だったのかなぁ… っと思うんですな。そうやってタイ人にとって、忘れてはいけないもの、大切なものを思い出させたい、っという願いをそこに見るは私の考え過ぎではないと思うんですよ…
 
 でも本当にコレ、日本人にはピンとこない部分も多いと思うんですよ。
「舞台となる村は都市部から見れば物も電気も無い貧乏な村なんだろうけど決してそうではない(地方との格差が拡大しているが、まだまだああいう村は多い)」ってのをはじめ、「村を襲うテロ組織がどう考えてもクメール・ルージュげでベトナム人げ中国人げってのが残虐非道卑怯卑劣である(国の歴史としてベトナムや中国からの侵略を受け続けてきたタイにとって両国は大嫌い。特にベトナムはクメール・ルージュが越境して略奪を繰り返したり麻薬ビジネスを持ち込んできたりした連中だけに大嫌いで、不敬不信心で卑怯卑劣な連中だと思っている)」や「坊主や村長やお年寄りがアッサリと殺される(これはタイでは凄いタブー)」や「国王と国歌(毎日国歌が放送されるがその時は起立し唱和しなければ不敬罪になる)」とか、こうやっていちいち説明してみてもピンとこないでしょ? 私だって知識として知ってはいてもピンとこない部分はあるし…
 だけど、
ラジオから国歌が流れてきた時、主人公だけでなく村人達全員が己が命を捨てて国を汚す者達を倒そうと団結し蜂起するシーンは『CASABLANCA (『カサブランカ』(1942))』で「ラ・マルセイエーズ」を歌うシーンとその意味においてどれ程の違いがあるというのだろうか?
 そしてそれを笑う事は私には出来ないし、殊更に右翼映画と言う気にもなれないんですよね… むしろエンターテイメントとして、まず多くの人々に観てもらって… って姿勢も素直に羨ましく思いましたよ。
 
 
 
 ふと思ったのですが…
『Ong-Bak』の主人公ティンも『Born To Fight』の主人公デユーも殆ど笑わないのは、彼らが阿修羅だからなんだろうか… 三面六臂の阿修羅像… 諸天との戦いに明け暮れる荒ぶる鬼神であり破壊神ともされるが、武具を持たず、身に着けずにいる神の三面は
「怒り」
「悲しみ」
「意志」
 だという。
そこに笑顔は無いように、現世を憂い、憤り、悲しむ監督らの想いと意志を託された彼らが生身で戦い、痛み、そして戦う事の意味があるのかもしれない、っと。
 

 以下はこのDVDについての情報なのでお時間と興味のある方だけ

 
・『Born To Fight (2004)』(PAL) - Region All
 
 Screen format : Widescreen
 Run Time: 129 minutes
 Language : Thai (DTS/5.1/2.0)
 Subtitle : None
 
 DVD Features :
 ・ STUNT SCENE
 ・ THEATRICAL TRAILER
 ・ PROMOTION
 ・ BEHIND THE SCENE
 ・ CAST
 ・ COLLECTION (2) 
 ・ DELETE SCENE
 ・ ANIMATIC (3)
 ・ WALLPAPER

 

 DVD特典が豪華。
・「STUNT SCENE」をオンにすると本編再生中に時々画面左下にキックのシルエット型アイコンが現れるので「ENTER」を押すと、リハやメイキングや失敗シーンを再生してくれる、というもの。結構な数が入っていますがどれも痛そう、っか痛いものばかりです。
・「THEATRICAL TRAILER」は予告編。
・「PROMOTION」は、おそらく劇場公開前にタイ国内のTVで放送された宣伝特番。
・「BEHIND THE SCENE」は「STUNT SCENE」とのダブリが大半です。
・「CAST」は出演者の経歴を文字表示… ってもタイ語なんでサッパリっす。
・「COLLECTION」は宣材のポスター等を集めたもの。
・「DELETE SCENE」は… これはテンポの為にカットしたんでしょうけど、お話の繋がりが切れてしまっただけに、あえて収録って事なんでしょうが… 本編に入れて欲しかった。
・「ANIMATIC」は3つのスタント場面の3DCGコンテ。殆どその通りになってる、ってのが無茶です。
・「WALLPAPER」はDVD−ROMコンテンツ、です。