『Beautiful Boxer』を観た。

 小さい頃から男の子としてよりも女の子としていたかったパリンヤーに、両親
は悩んで仏門に入れるも彼の場合は男色嗜好ではなく性同一障害であった事が次
第に解ってくるものの、ひょんな事からムエタイをする事になり…

 と、パリンヤーさんにとっての『真実』を元にした『物語』の映画なので、
多分『事実』とは異なった部分も多くあるんでしょうが、そういった事はとりあ
えず置いておけるほどに、物語の流れと穏やかだけどしっかりとした語り口など
が、全ッ然、カケラもタイ語が解らない私でも退屈しないで観ていられたのね。
 構成が「外国人のジャーナリストのinterviewに答える」、って形式で章っか
その場面の前に英語で話すのもあるけど、台詞で語るのではなく演技で示して、
そしてそれがちゃんとこっちに伝わるレベルになってるから、細かいデティー
の説明部分は解らなくても、語らずにみせた部分は解るんですよ。

 この主演の子、ルンピニーにも出た元ムエタイの選手で初主演らしいんだが、
とてもそうは思えない。根の素直さや地の優しさだけでなく、ちゃんと「演技」
ってレベルになっているから余計に、ソッチのケは全く無い私であっても観てて
こぅ… 切なくなってきたりしたもの。


 ただ、残念なのがクライマックスの井上京子戦からエンディングまでが整理
しきれてないのと、やや駆け足になってしまったので
「(手術で)体は男から女にはなったけれど、女になるというのは本当に、
とても難しい… 」
 って台詞の説得力がやや欠けて散漫な印象になってるんよね。
それさえ何とかなったらコレ、凄くいい映画になったと思うんだが… ホント、
そこまではいい映画だったですよ。


 だからね、

「じゃ逆に聞くけど、テーマをセリフで語っちゃいけないの?」

「だからさ(深く溜め息)、言葉で語っちゃいけない、映画なんだから映像で語る
べきだって誰がいつ決めたの?」

「だから、なんでテーマを押し出した映画があってはいけないんですか?」

 ってのが御託でしかねぇよ… って。
語ろうが、語らないでいよう構わねぇんだよ。だけど質、程度、芸、ってものが
駄目、退屈、凡庸、薄っぺら、ツマラナイ、ってだけでしかねぇよ… って。
 それも自覚していて尚、言うのなら詭弁だし、欺瞞だ。
 自覚してなかったのなら、お子様、ガキとしか言い様が無い。

 どっちにしても、私はそんなヤツの作る「作品」なんか御免だね。