「窓」(日記)
妻はパートに出かけ、母も友人のところへと出かけ、
独りでぼんやりといる家。子供の声も犬の鳴き声も、
車の走る音も聞こえず、微かに耳に届くのは蝉の声。
クーラーのきいた自室で、何をするでもなくボンヤリと
ベッドに寝転びつつ、窓のカーテンを細く開けてみれば、
屋根の向こうに遠く、高い青空が広がっているのが
なんだかとても懐かしく、そして寂しい気分になる。
こうも静かな日はいつ以来なのだろう?
この感覚はいつのものなのだろう?
祖母の入院でのプータロー時代?
大学生の頃?
高校生の夏休み?
中学?
と、辿っているウチに染み出てくるように思い出した。
それは、小学生の頃。
火傷の治療で入院していた頃のこと。
白い部屋。一人でのベッドの上で身動きもままならず
本を読むか寝るしか時間の経過を進められなかった
日々。窓の外、見下ろす町は薄汚れた灰色の町・
名古屋で、色のあるものは空しかなかった日々。
高く、遠く。
憧れとも、逃避とも、夢想ともつかぬ、空への想い。
色に満ち、果ての無い世界への想い。
遠く、遠く…
リアルに思い出せた、とは思えない。
あの頃の切なさや苦しさは、今の私からは遠いし、
過ぎた時間も長く、そして私は中年になっている。
しかし…
空の青さは、未だ眩しくて、切ない気分になる。