『Idiocracy (2006)』

 
 合衆国軍の極秘実験「人間の冷凍保存実験」の為に選ばれたのは知力、運動能力、信条、等のあらゆる点で平均的で、両親も家族も子供いないJoe Bauers(Luke Wilson)。彼一人じゃ寂しいかもしれんからと基地の近くで商売をしていた立ちんぼのRita(Maya Rudolph)も一緒に実験に参加させる事となり、翌年に解凍するのを信じて二人はカプセルでの冷凍睡眠に入るのだが、実験の担当将校がウッカリ情報の機密データの入ったリングをRitaのヒモと交換しちゃったもんだから大騒動、実験は急遽中止になり基地は閉鎖し有耶無耶にしてしまうのだが、極秘実験の担当者らが逮捕されてJoeとRitaの事を知る者がいなかった為にカプセルを回収しないままに基地は解体されてゴミ捨て場にされてしまい、二人は長い長い眠りにつく事になるがそれから500年後の2505年、積もり積もったゴミの高山が遂に崩れてやっと出土、もとい出ゴミしたカプセルが開き、目覚めたJoeは外へ出る。
 未知ではないがどこかおかしな街に戸惑いつつ病院へ行った彼は、自分が冷凍睡眠されてから500年もの時間が経過している事を知る。
 
 そう、IQの高いお利口さん達が子供を作らない一方でIQは低いが体力と精力はあるおバカさん達はネズミの如くIQの低い子供を大量に作りまくったせいで25世紀は民主(Democracy)の世界ではなく、バカしかいない(Idiocracy)世界になっていたのだ!

 
 私は本作を『BORAT: CULTURAL LEARNINGS OF AMERICA FOR MAKE BENEFIT GLORIOUS NATION OF KAZAKHSTAN(ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習(2006))』が日本での公開予定が無い状態が続いていた頃にDVDを個人輸入しようかどうしようかと迷いつつネットをしていて知った作品でして、『ボラット(以下略)』が調べてみるとサシャ・バロン・コーエンが仕込む事でのドキュメンタリー形式ネタ映画らしいってのにどうもノリ気になりにくく… そりゃまぁおかしな人はいるだろうけど、同様の形式で日本でも別の国でも似たような内容になりかねないよなぁ… っと思い、その後日本での公開も決定したので
「まぁそのうちDVDレンタルでの視聴でいいかな?」
 と思ったんですがそれに比べると本作、テーマとしては近いっか似たようなモノであるし、主演がルーク・ウィルソンって時点でアレなのに興業成績も悪かったんで多分、コチラは日本版DVDも無いだろう… って事でオーダーしたんですが
 
 怖ぇよ! 洒落になってねぇよ!
 
 言わば『Dawn of the Dead (1977)』のゾンビがバカになってるだけなんだけど、最悪どちらにも殺されるって点では同じでもゾンビはブチ殺せるけどバカは殺せないって点でタチ悪過ぎ、って今の、現状と一体どれだけ違うと言うのか。多分、先人が遺したテクノロジーを理解していないんだけどその機能と恩恵を享受しひたすらに消費を重ねるだけの世界は結果として意思も目的も秩序も無き管理社会になっちゃってるって怖さは『ソレイント・グリーン』や『華氏四五一度』どころじゃない。『未来世紀ブラジル (1985)』の世界も悪夢だけどまだ抵抗するだけの自由と意思があったがこの世界にはそれすら無い。『未来惑星ザルドス』は知と生命の復権・回復の物語であったがこの世界では既に知性は既に絶えて最早自力での復権も出来ないし手掛かりすら無くなりつつある状態になっていて。対峙すべき敵も無く、抑圧する権力も無く。単純な戯画化された過去はあるが、夢見る未来は無く… そんな世界の風景や人物が現在の、身近なもののままであるが故に余計に既視的にも見えて… あのまま行き過ぎると『猿の惑星』になっちゃうかもしれん世界での物語をコメディとして消費するにはあまりにも現代的過ぎて重いっか苦いって言いますか…
 水道水がみんなゲータレードになってるとか、マークが女神だからかスターバックスがHand Job屋になってるとかの細かいギャグにしてもそれらの中でやらてるとあんまり違和感が無いっか突飛なネタとも思えないってのは私の考え過ぎなんでしょうか? っと思ったら本国アメリカでもアッという間に打ち切りになったようにお気楽でお馬鹿なコメディとして期待をするとその苦さや重さでゲンナリするであろう本作…
 
 同じ20世紀フォックスで、同じ年で、本作の3ヶ月後に公開された、同じアメリカ文明批判の映画『ボラット(以下略)』は大ヒットしたのに比べてこの作品が興行成績的には明らかに失敗した理由を考えるに、私は映画としての出来もさる事ながらこれがフィクションという形を借りた現状批判でありその批判対象はこの作品を観る人間全てに向けられていて殆どの人がその攻撃対象になってる悪意の濃度の高さではないか? って気がしましてなぁ…
ボラット(以下略)』の場合、ドキュメンタリー形式であるが故に、そこで笑い者として対象化されるのって個人なんですよね。リアルな個人。だからまだ他人事として、
「自分はあんなのとは違う」
 って笑う事が出来る。『Jackass』でメンバーのパフォーマンスにドン引きしたりマジ怒りしてる人を笑うのと構造的にはそんなに大差無いんじゃぁないかと。事実、実際の出来事だからこそ、そこにいなかった自分を棚に上げて他人事として笑える、って感じで。その笑いが自覚的かどうか、ってのや、それらを全ての人が笑えるかどうかってのは別にして、ね。
 だけどこの作品の場合はフィクションだから逃げようが無いんですよな… 冒頭の繁殖例(苦笑)でIQの低いサンプルで出る夫婦の住む家がトレイラーハウスではなく一軒家でIQも80程度… 境界線上であって軽度知的障害に認定される70以下ではない… そりゃまぁ平均値と言われる90〜109ではないが、だからと言って特別に低いものではない。遺伝が強調されているように見えるものの、実際には遺伝で個体の全てが決定なされるものでもなく、後天的な学習や社会情勢も知能指数の変化には関係があるものじゃないですか。
 だからこの映画の世界って
「いやまぁアンタら他人事として笑ってるのは簡単だけど、何もしなかったらこうなるかもよ?」
 って相対する社会の程度が落ちれば民度全体もまた落ちていくという1つの形の行き過ぎた戯画でしかないから逃げ場が無いんですよな… 現状のIQや社会的地位とか収入とか関係無い、消費し享受しているだけの者は皆一緒、って言い切ってるんだもの。まぁそういう点では道徳的な映画とも言えるんですが、それにしちゃぁ悪乗りが過ぎると言いますか…
 
 そういう映画だと解った上で観た人には悪くない評価を得ているようなんですが、それにしてもねぇ… 単純なお馬鹿映画だと期待していると一見馬鹿馬鹿しいくせに変な、妙なリアリティがあってヤな映画なんじゃぁないんでしょうかねぇ… 少なくとも私はあんまり笑い飛ばす気にはなれませなんだなぁ… これがまだSF映画としてカッチリ作ってあるとか、もっと悪趣味な世界を構築してるとか、エンターテイメントに徹する、ってのならまだ娯楽として消費し易かったんでしょうが、わざと、あえてそうではないように作ってある性根の腐れ加減(←褒め言葉)は観ていて落ち着かんっか居心地が悪ぅございましたわ…
 
 
 
 ってのはさておき、以下はこのDVDについての情報なので興味のある方だけ

 
・『Idiocracy (2006)』 - Region 1
 
 Studio: 20th Century Fox
 Theatrical Release Date: September 1, 2006
 DVD Release Date: January 9, 2007
 Run Time: 87 minutes
 
 Aspect Ratio: Widescreen - 1.85:1
 Available Audio Tracks: English, Spanish − Dolby Digital 5.1, Stereo Surround
 Available Subtitles: English, French, Spanish
 
 Special Features:
 ・Deleted Scenes (5)

 

 
 画質、音質は問題ございません。ちょっと背景等のマットペイントが荒いっか浮いて見えなくもありませんがまぁそれも味っか冒頭の60年代ちっくな未来図とのダブリって効果ともとれなくもありませんし。
 
 特典は本当に少なく、実にどうでもいい「Deleted Scenes」が5つのみ。音声解説とか贅沢を言う気はありませんが、せめて劇場版予告編くらい収録しても良かったんでしょうが… 売れない映画DVDなんてこんなもんですわな、って事でソフトとしての魅力は若干薄いかと思いますんで興味のある方だけどうぞ… って事で。