『Art of Action: Martial Arts in Motion Picture (2002)』

 

 コレ、「Martial Arts」じゃなくて「Kung Fu」じゃん。以上。
 
 
 
 …ってだけではアレなんで、このソフトに興味のある方だけ
 
 一応既に

 と日本版も出ているのは知っていて、マーシャルアーツってより武術映画の歴史を辿るドキュメンタリーって事で興味はあったんだけどTV局製作のではないドキュメンタリー系のブツとあってはソニー・ピクチャーズ関連がメインになる事は解りきっているので何となく購入する気にならないでいたんですが、US版の$9.99ならばまぁそんなに惜しい値段でも無いか… っと他の映画DVD購入の際の数合わせにと今更ながら購入してみた、ってブツでありまして。
 
 何故に、どうしてなのか全く解らない進行役サミュエル・L・ジャクソンが様々な映像や関係者らのインタビューを織り交ぜながら武術映画の歴史を語ってゆく、というものでサモ・ハンドニー・イェン等の俳優・女優だけでなく様々な監督やジョン・キャラダインにスティーブン・セガール、いつ頃の収録か解らないんだけどまだ若い頃のジャッキー・チェンのインタビュー映像使用しての本編、紹介される1930年代の活劇映画等、濃いファンの方にもちょっと珍しい映像が使われているんじゃぁないかと思うんで、それらを観るって点では楽しいんですが… あ、Amazon.co.jpの商品の詳細にシルヴェスター・スタローンの名前がありますが、『アラン・スミシー・フィルム (1998)』のメイキングから引っ張ってきただけですんで特にスタローンが語るという訳ではありませんので。

 本編、たらたらと何か他事をしながら観るには悪くないんですが、あくまでアメリカ人の脚本家が書いた脚本に、中国人らの証言で付け加えられたデティールが乗っている状態なんで、見ていて「?」って思う部分が少なくないんですよ。
 例えば武術映画の源流を弾圧を受けて地下に潜った少林寺の武術師範らが京劇に密かに武術を組み込んで、その京劇を元にしたのが中国映画で、だから独自の美意識と武術が同居する独自のスタイルとなった、ってのはお話としては面白く思えるし全く関連性は無い事も無いんだろうけど歴史的に見てそれが正しいか?となったら『中華武術 (This Is Kung Fu (1983))』等を観てるといささか乱暴に過ぎるように思えるんですけども。本編ではだからこそ京劇学校での虐待さながらの勉強になる、っと『七小福 (1989)』からわざわざそういうシーンを引っ張ってきたりもするんですけど、それも含めて引っかかるんですよな。
 
 また、香港映画の革命児としてツイ・ハークジェット・リー等、これが製作された当時に存命の人達で本編で取り上げられているにも関わらずインタビューが無い人が多かったり、あくまでも中国武術に限ってのにしたかったのか副題に「Marshall Arts」とあっても千葉真一志穂美悦子も出てなかったり、何度か途中で出る多分『白髪魔女傳 (1993)』の衣装はワダ・エミだし、監督のアン・リーが台湾人であるのに台湾の事は一切触れられていない、とか、妙に政治を所々で挟むワリに中国への言及は一切無かったり(文革時代とかさぁ…)、とか、歴史物系っかドキュメンタリーとしてはかなり物足りないんですが、それよりも一番個人的には引っかかったと言うか嫌ぁな気分になったのがアメリ中華思想的な
「まぁ要するにアメリカがあったからこそ中国映画が出来て、じゃんじゃんパクらせたから洗練されて、人材も資金も教育もしてやったから発展して、マーケットだけでなく香港返還後に導いてやってやったから世界に知られるようになった」
 って言ってるとしか見れなかったのは… まぁ私の見方が穿ち過ぎなんでしょうけども、でもねぇ…
 
 確かにそういう一面はあるし全く無関係って事は無いでしょうけども、しかしそんな事を言ったらそもそも映画が作られたのはアメリカでしたっけ? アメリカ映画にしたって色々な国の映画からの影響を受けて発展し、それがまた世界にフィードバックされて戻って… ってのじゃぁないんでしょうか。
 そしてそれは映画としての、というだけでなく「Kung Fu(功夫)」にしろ「Martial Arts(武術(wu shu))」にしても、そうやって様々な要素を取り入れて発展していったんじゃぁないんでしょうかね… 勿論、時勢の変還による流行・廃りで失われるものもあるし残るものもあって、それらを単純に現在の情況によって優劣や正否を問うものでもないように…
 
 って思うんで、この作品のような偏向からすると「Art of Action」という題名も、「Martial Arts in Motion Picture」って副題もふさわしくなく、せめて副題くらいは「Kung Fu of Motion Picture」にした方が本編にはふさわしいと思うんですけどね…
 
 って言うか、アメリカが中国に返還されて活気と自由を失った香港映画界から人材を救ってやってチャンスと金とマーケットを与えたからこそ出来たと言わんばかりのクドさで持ち上げる『グリーン・デスティニー (臥虎蔵龍(2000))』が実際には中国、香港、台湾、米国との合作ですがな、とか、香港返還後にも生きる武術映画ってカット集ん中に『方世玉 (1992)』等のように返還前の作品が混じっていたりと例に挙げる事例に別に上げ足取りのつもりは無くともツッコミがいくつも浮かんじゃうくらい乱暴なんですよ、このまとめ方って。そりゃぁ整理して体系化するのも1つのまとめ方だとは思うんですけど、それが「中国人の顔を立ててやりつつもその実はアメリカを軸に据える」ってのだと矢張りズレてしまうんじゃぁないんでしょうかね… で、そのズレを無理からまとめようとするから更にズレたり多少はこのテのジャンルを齧ってる私からすると「?」になってしまうんじゃぁないんでしょうかね… っと、物足りないのに加えての部分もあって結構退屈な視聴でありましたわ。
 ショウ・ブラザースが黒澤から学んだ、とか初めて知った事や兎に角色々な作品の映像が観られるってのはいいかとは思うんですが、トータルとしては私には「帯に短し襷に長し」ですかね。
 
 で、以下はこのDVDについてのデータ。
 

 
・『Art of Action: Martial Arts in Motion Picture (2002)』 - Region 1
 
 Studio: Sony Pictures
 DVD Release Date: December 31, 2002
 Run Time: 96 minutes
 
 Aspect Ratio: Full Frame - 1.33
 
 Available Audio Tracks:
 English - Dolby Digtial 2.0
 
 Available Subtitle: English, French, Spanish, Portuguese, Chinese, Korean, Thai
 
 DVD Features: Trailers (6)

 

 画質はまぁ普通。
本編で使われる様々な作品の映像素材がてんでバラバラなのはまぁいいんですが、インタビュー素材やサミュエル・L・ジャクソンの語りなどややピントが甘い感じはしますが「まぁ普通」でいいんじゃぁないかと。
 特典は『The One』等、本編に縁のある出演者らの作品の予告編が収録されているだけでOuttakes等は一切無し、もしあれば… ですけど、興味がある方はレンタル視聴でいいんじゃぁないんでしょうか。個人的には$9.99でもちょっと微妙なブツだと思いましたわ…