『ティム・バートンのコープスブライド (2005)』

ポスター(US版)

 
 80分弱という上映時間でも退屈する映画はあるワケで、それと比べれば最後までツラッと飽きたり退屈する事もなく観れたものの、
「いやしかし、この不足感とは何なんだろう?」
 と劇場から帰宅後思わず『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を再見してしまった私ではございますが… 『コープスブライド』が1イント(1秒間に60コマ)のようだとするなら『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は2イント、いやそれ以上の動きに見えてしまったのは感慨深かったものの…
 
 余談だが、今回の字幕翻訳をした石田泰子氏の御仕事はイマイチ。
日本語としておかしくないし物語の流れを阻害もしない、そういう点だけで言えばいい訳なんですが、ロウワー・アッパー・クラスとアッパー・クラスの言葉の使い方のニュアンス等のディティール部分を全部ロウワー側で統一しちゃっているのは勿体無い、っか残念でありました。同じ「enough」という言葉でも「充分」「十分」「結構」「沢山」「宜しい」等、意味合いが違うんですが… ってのが全体に散見出来たのが惜しいですよな… っと*1
 
 って余談はさておき、
以下はネタバレも含む感想っか雑感になるので、既に観られた方か、知っても構わないっと思う方だけ…
 
「ここ一発って絵と音が無いんだよなぁ… 」
 っと、まず思う。
例えば『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』、冒頭からジャックの苦悩までの流れるような展開で示される「世界」、そして墓場と月のシーンの美しさのようなものが『コープスブライド』の場合はエミリーの登場シーンと最後くらいしか無かったように思う。
 楽曲にしてもダニー・エルフマンのコーラス等、「らしさ」が無いのは別にいいのだが、聴いていて耳に残るようなメロディも無かったし、やや楽曲が画面と乖離しているように思えた。
 例えば死者の世界でのミュージカル・シーン、ダニー・エルフマンが今回ボーン・ジャングルというキャラで歌い踊るのだが、Mrボー・ジャングルをもじったキャラとピアノ弾きのガイコツがサングラスをかけたレイ・チャールズ風なのに、ダンスも曲も「黒くない」。ソウルフルにする必要は無いが、ビッグ・バンド形式のワリに繋ぎ、転換が唐突でスゥイングしてねぇですよ。
 
 そして、蝶がヴィクターの自身の境遇からの自由への憧れの象徴だとしても野に放たれた蝶の舞う現実の世界の何と暗く、陰気で、寂しい世界な事か! そんな世界であっても自由は憧れるものなのか?憧れにしては、あまりにも苦くはないのか?
 だからこそラストの蝶に、イマイチこぅ爽快感も開放感が無い。
ティム・バートンにとって現実に生きる事って妥協と諦念なの?」
 っと一瞬、意地悪い見方をしてしまったものの、そう思えるくらいに物語の展開も映像も閉塞しているんですよな…
 
 確かにハロウィンタウンの精霊っか妖精(っか妖怪?)の連中と違って、死者の国の人々は基本的には我ら凡人と何ら変わるものでもなく、特別なスキルというよりは個性の集まりであり、「死」が無いが故に基本的には陽気である、というのは解るんだけど、町の外観すら一度として映さないのを閉塞感ととるかありふれた身近さ、親しみやすさととるか… 私には前者にしか観れなんだ。
 加えてカメラの動きが小さい、とあっては…
 
 だから、ストップ・モーションものとしては技術、予算、手間的に見てもとんでもないレベルにある事は素人目にも解るのだが、
「だからこそ、物語と世界、そして人物に魅力が必要じゃないの?」
 っと思ってしまうんですよね。
そう、海外の興行成績で、技術的にはずっと落ちる『ウォレスとグルミット』初の長編映画の方がいい、ってのはそういう事もあるんじゃないのかなぁ… っと。
 
 実は今、
コレを書いていてふと思い出したのが『トランスフォーマー』の劇場版映画で。TVと比べて予算もスタッフも大幅に増え、
「人間の目には1秒間に60コマ以上描いても認識出来ないんだ!」
 っと嘆いたのも、オーソン・ウェルズら豪華な出演者も揃え、お話としてもTVのトランスフォーマーの物語になっていて、そういう点では実に、真っ当なトランスフォーマーの映画ではあったが、
「じゃぁ映画としてどうなの?」
 ってなると私には退屈な出来だったんですよ。
 ナルホド、豪華ではあるしよく動く。しかし、だから何? って。
 
 別に『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の二番煎じ、続編を期待していたワケじゃぁない。だが、ティム・バートンの映画としては、よくまとまった映画で、お話としての過不足も特に感じず、そして綺麗な映画だから… というので満足は出来ないんですよ、私は。
 確かに死者の世界の賑やかさなど、ティム・バートン「らしさ」は満ちてはいるが、必要なのは「らしさ」じゃぁねぇんですよ…
 
 … っとまぁ色々書きましたが劇場で観た事はスクリーンの大きさと音響設備の良さって点でも、映画としての面白さって点でも後悔はしてませんので素直に
「あぁ劇場に行って観て良かったな」
 っとは思いましたし、US版DVDが出れば買っちゃうでしょう。
ただ、長く、リアルタイムでティム・バートン作品を劇場で観てきた私には、残念 …とまでは言わないものの、不足を感じる作品でありました、っと。
 
 それ程、事前に期待をしていなかったつもりですが… 何て言うんですかねぇ… 『チャーリーとチュコレート工場』がティム・バートンの作品として真っ向で、映画としても良かったのを思う*2と、ね…
 ってトコですかねぇ。
 

*1:しかし、吹替えではその「同じ言葉でも意味合いが違う」という面白さが薄くなってしまったり無くなってしまうんで、私は劇場で観る気にはなれんのですよなぁ… 

*2:しかし、興行成績的には全くふるわなかった『ビッグ・フィッシュ (2003)』の出来が、『チャーリーとチョコレート工場』より落ちるとは思えないんですけども