「小倉にて。」(日記)

 いつもならそのまま門司港行きの電車に乗るのを今回は
初めて小倉で降りて、駅前を妻と散歩したのだけど、あの
駅裏っか商店街から路地一本入ったらもぅエロ個室だの
エロ映画やストリップ小屋だのがズラズラズラっと並んで
いる風景はなんとなく浅草を思い出したりして。見知らぬ
土地でもこういう『場所』、かつての自分にとっての居場所
であり、こういう空気の中にいると、なんだか懐かしい気分
に浸ってしまうんだが、一人身ではない、単身ではない
故の責任感、と言うか緊張感はやっぱりあるもので。
 立ち食いや立ち呑み屋とか美味そうなんだけど、どうも
昔の自分がこういう場所でよく喧嘩していたのを思い出す
と、立ち寄り難いんだわな。
 手前一人なら椅子なりビール瓶なりで蹴散らして逃げる
のも、妻がいてはどうにもこうにも… 何かトラブった時
にどう対処していいものやら未だに思いつかないし。

 それが負担ってワケじゃないんよ。
 手前勝手にゃぁ出来ない、ってコト。

 それと、自分が変わった… ってのもある。
かつての自分は多分、『場所』で人と出会う事を望んでた
ように思う。こういう『場所』だからこそ、外見ではなく
手前ぇ中身と金さえありゃぁ人として扱ってもらえれる…
だから嘘やハッタリをカマさない(どうせバレるだけだし)
で、手前ぇの身ぃ一つで…
 って気持ちって、どっかで伝わるんで、面白がってくれ
たり、一緒に飲んだり遊んだり… ってしたけど、なんか
こぅ結婚してから「人」ってのに対しての「飢え」っての
を感じなくなっている自分ではまぁ、良くてただの「客」
にしかなれないだろうなぁ… どこかで、誠実っか切実に
なれねぇもんなぁ… とか。

 かつての自分は、今の私をどう見るんだろう?

 気に障って噛み付くか。それとも無視か冷笑か。
「本質的には対してさして変わってない筈なんだがなぁ…」
 と、ボンヤリ思った小倉。